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旬のカニ、ゆでて味わった旧石器人 沖縄で調査し暮らしぶりに迫った本「南の島のよくカニ食う旧石器人」

(左)現生のモクズガニ(右)出土したモクズガニのはさみ

 煮炊きに使う土器も生まれていなかった数万年前、旧石器時代の人たちは何を、どうやって食べていたのか――。『南の島のよくカニ食う旧石器人』(岩波書店)は、それにある程度の答えを与えてくれる。
 著者は国立科学博物館研究主幹の藤田祐樹さん。舞台は沖縄県南城市にあるサキタリ洞という鍾乳洞だ。
 藤田さんは沖縄県立博物館の学芸員だった2009年、一角に洞窟カフェが設けられ、観光地にもなっている床面積620平方メートルほどのこの洞窟で、旧石器人の暮らしぶりを探るための発掘を始めた。
 人骨や石器、世界最古とされる釣り針などを発見したが、中でも特に目立った遺物が、カニとカワニナの殻だった。どちらも1万点以上が出土したという。
 カニは淡水のモクズガニ。殻の一部が一定の割合で焦げていることから、藤田さんは再現実験や考察を重ねることで、革袋などを使ってゆでて食べたカニの殻がたき火に捨てられた結果焦げたもの、と推測した。
 しかも、モクズガニのはさみの長さが3~4センチの物が多いことから、カニの中でも最大級の個体を選び、秋の産卵前の最もおいしい時期に捕獲して食べたと考えた。「彼らは旬の味覚を味わっていた。旧石器人の暮らしは決して余裕がないものではなかったんです」と藤田さん。
 サキタリ洞の発掘の成果を分かりやすく伝えるのが、藤田さんの脚本による、大城愛香さんのアニメ「サキタリ洞むかしばなし」だ。動画サイト「ユーチューブ」で視聴できる。本とあわせて見ればサキタリ洞の旧石器人の世界がよくわかる。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年10月2日掲載