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日本から一番遠い国 湊かなえ

 また行きたいのです。明日にでも旅立ちたいのです、ブラジルへ。

 リオデジャネイロブックフェアに行ってきました!

 招待を受けた際、地球の裏側の国へ行けるんだ! と大はしゃぎしながら、「行きます」と即答し、それから、治安について調べました。

 強盗や流れ弾に注意。流れ弾? どうやって注意すればいいのだろうと、通販で防弾チョッキを検索したところ、ワンピース一着分くらいの値段だったため、買おうかと思い、やめました。そんなものが必要な所に、招待されるはずがありません。外務省の海外安全ホームページを確認しながら、地味なバッグやダミースマホを用意しました。高価なアクセサリーや腕時計も禁物です。

 関空発、ドバイ経由で、トランジット込みの28時間、サンパウロに到着しました。日系人の多いサンパウロは、街の人たちが皆、日本人に優しく、穏やかな気候(冬でも気温は26度、カラッとした陽気でした)と共に、緊張も緩んでいきました。

 翌日はリオデジャネイロへ。オリンピック以降、治安が悪くなったと言われており、再び緊張感が高まります。国内線で夜に到着し、街へ向かう途中、山一面に輝く夜景を美しいと思いましたが、そこがスラム街でした。夜が明けた景色はもっと素晴らしかった! 海と山に囲まれた高い樹(き)が繁(しげ)る街並みは、なめらかな岩肌がむき出しの山を見れば、登ってみたいと感じ、青い海が広がるビーチを見れば、駆け出したい衝動に駆られ、石造りの建物が並ぶ通りを歩けば、自然と体が浮き立つような気分になりました。人々は明るく陽気で優しく、食べ物はおいしい。

 スラム街に近付かない、夜間の外出は控え、100メートルの移動でもタクシーを使う等、ルールを守って行動すれば、これほど素晴らしい国はありません。

 一回分のエッセイでは感動を伝えきれず、ブラジルかぶれが続くあいだは、日本から一番遠い国の魅力を伝え続けたいと思っています。=朝日新聞2019年10月2日掲載