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『「助けて」が言えない』書評 「去ろうとする者を追いかける」必要性

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月05日
「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか 著者:松本俊彦 出版社:日本評論社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784535563797
発売⽇: 2019/07/12
サイズ: 19cm/263p

「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか [編]松本俊彦

 SOSを出せない人は社会の中で存在を見つけにくい。社会のあちこちで起きている悲劇や問題の根っこには、人に頼れず、一人であるいは家族のみで困難を抱え込む人々がいる。それは彼らの「自己責任」なのか?
 薬を飲みたくない精神病患者、酒や薬物やギャンブルの依存症、フラッシュバックで「惨めな自分」像から抜け出せない複雑性PTSD、自傷行為を繰り返す人、虐待や貧困家庭、考えや気持ちを伝えにくくなる認知症患者、性犯罪被害者、性的少数者……そして支援者本人もまた孤立し行き詰まることもあるという。
 興味深いのは、従来依存症の臨床現場では「去る者は追わない」というスタンスが原則とされてきたが、「去ろうとする者を追いかける」必要性が提示されていることだ。巻末の座談会で語られる「自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと」という言葉は、現在特別な困難のない人にも広く届けたい。