体が男性であることに5歳から違和感を持っていた。女性の体に近づける性別適合手術を受けたのは68歳のとき。そこに至る個人史を縦糸に、性的少数者をめぐる社会の問題を横糸に編んだのが本書だ。
著者は元大学教授で、専門は経済学。数多くの著作は、戸籍上の男性の名で刊行している。
性別に戸惑いを感じながらも、40代まで自分自身を説明できなかった。「性的にときめく対象はつねに女性なので、男性という定義から外れるわけにはいかないのだろうと思っていました」
心の性は女性――。はっきりと自覚したのは50代になってからだ。性同一性障害についての情報を収集するうちに、「体は男性」「心は女性」で女性を好きになることもあると知る。「自分は男性と無理して考えなくてもいいんだ」と納得した。
文芸同人誌でのペンネームに明笑の名を使い始める。婦人物の服を着るようになる。やがて、「オジサン化する身体」を放置したくないと考えるようになった。長く双極性障害に苦しんだせいもあり、性別適合手術を決心するまでに十数年が過ぎていた。「ここまで来たら、納得できる線まで近づけたい」。年齢的に最後のチャンスと思った。
書名は、大好きな岡村孝子の曲「夢をあきらめないで」から。自分自身に言い聞かせてきた言葉であり、性別違和を抱える若い世代へのメッセージでもある。
この本は特に、教育者や30~40代の親に読んでもらいたいという。「例えば10歳くらいの子が性別違和をほのめかすようになったとします。そのとき、もし大人が徹底的に否定したら子どもが受ける傷は大きい。性をめぐる多様性をしっかり理解すれば、どう関わるかという方針が見つかるはずです」(文・写真 磯村健太郎)=朝日新聞2019年10月5日掲載