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ヨシムラヨシユキさんの絵本「ブラックライトでさがせ!妖怪探偵修業中」 ライト片手に、探偵気分が味わえる

文:朝宮運河、写真:北原千恵美

――ブラックライトをページに向けると、色鮮やかな妖怪たちが浮かびあがる……。ヨシムラヨシユキさんがイラストを手がけた絵本『ブラックライトでさがせ!妖怪探偵修業中』は、ブラックライトを片手に楽しむ斬新なスタイルの「絵探し」本だ。特許取得の技術「ルミナスパレット」を絵本で初めて採用し、これまで難しかったフルカラーのブラックライト印刷を実現した。

 最初に「ブラックライト印刷の絵本」と聞いた時は、飲食店やテーマパークで目にするような、ぼんやりと光る絵をイメージしたんです。でも打ち合わせで見せてもらったサンプルは、それとは全然異なるものでした。こんなに色鮮やかに、はっきり絵が浮かびあがるのかと驚きましたね。

 これまでにない絵本を作りたいと考えた編集・デザイン担当の佐野彩子さんが、僕の妖怪イラストを気に入って、声をかけてくれました。何もないところから絵が浮かびあがるブラックライト印刷には、目には見えない妖怪の世界がぴったりだと考えたそうなんです。ルミナスパレットを使った絵本は世界初。新しい表現技法にチャレンジできるのは、クリエイターとして刺激的な経験でした。

――「暗黒電灯(ブラックライト)」を手に入れた男の子・ハルトと、妖怪探偵として修業中のひとつめこぞう・イチが、各ページに隠れている妖怪やアイテムを見つけ出してゆくという物語。家や学校、花火大会や結婚式などさまざまなシチュエーションが、修業の舞台となっている。

 どんな妖怪がどんな舞台で現れるかは、構成担当の後藤亮平さんに考えてもらいました。それをイラストに起こすのが僕の仕事ですね。もし自分でアイデアを出していたら、花火大会や海水浴場など、ここまで人が多い舞台を選んではいなかったかも(笑)。

 自分なりにこだわったのは、妖怪に遭遇した人たちの反応をしっかり描くことです。何もないところでつまずいていたり、なぜか鼻をつまんでいたり、「これって妖怪の仕業なんじゃないの?」という反応を描くことで、妖怪と人の距離感が伝わるんじゃないかと思いました。ライトで照らさなくても楽しいイラストになっていたら大成功ですね。

――有名な「かっぱ」「ろくろくび」から、こんにゃくのお化け「こんにゃくぼう」や大きな音でおならをする「おっけるいぺ」などのマイナー妖怪まで、登場する妖怪は120種。巻末には「妖怪カード」も付属しており、図鑑としても楽しめる。

 読んだら妖怪に興味が湧くような本を目指しています。そのためあまり怖い絵柄にはせず、ポップでとっつきやすいキャラクターデザインを心がけました。読者の中には僕よりもはるかに妖怪に詳しい子供がいて、イベントなどで「あの妖怪が入っていなかった!」とマニアックな指摘をされることもありますよ(笑)。

 語り継がれてきた妖怪たちを、キャラクターにするのは楽しい作業でした。「ねぶとり」は寝て太った妖怪だからこんな姿かな、とか名前や解説文から自分なりのイメージを膨らませています。気をつけたのは、先行するキャラデザインとなるべくかぶらないようにすること。ゲームの「妖怪ウォッチ」と似たキャラがいないかどうか、小学生の娘にもチェックしてもらっています。

――発売直後から読者の反響は上々だ。多くのメディアに取りあげられたこともあって、好調なセールスを記録。発売から約2年経った今では、ルミナスパレットを使用した類書もいくつかの出版社から出ている。

 絵本に加えてブラックライトも購入していただくことになるので、受け入れてもらえるか正直不安でした。しかし蓋を開けてみると、多くの読者が面白いと言ってくれ、全国の書店さんもプッシュしてくれた。25年イラストの仕事をやってきて、こんなに反響があった仕事は初めてです。SNSで「面白かった」という感想を見かけると、つい嬉しくなってイラストを添えたお礼のメッセージを送ってしまいます。類書が出るのは、素直に嬉しいですね。ブラックライト印刷は可能性のある技術なので、絵本のひとつの形として一緒に盛りあげていければいいなと思っています。

――人気を受けて2018年には続編『ブラックライトでさがせ!妖怪探偵世界旅行』が刊行された。海を渡り、ヨーロッパのお城や東アジアの山里、ハロウィン時期のニューヨークなどを訪れたハルトとイチが、外国の妖怪たちに出会うという内容だ。

 本屋さんに自分のコーナーを作ってもらうのが夢だったので、2冊目を出せると聞いた時は嬉しかったですね。苦労したのは、海外の妖怪のキャラクターデザイン。日本編同様、名前や参考文献の解説をもとにデザインしているんですが、日本の妖怪と違って画像資料もないし、なかなかイメージしにくくて。たとえば「ホォクーポォ」と名前だけ聞いても、全然姿が浮かんできませんよね(笑)。

 ささやかなこだわりとしては、背景に描かれている外国の景色や建物、住んでいる人たちが着ているもの、食べているものなどは、現実に沿って描くようにしています。そこを適当にしてしまうと、絵の説得力が弱まってしまうんですよね。いざ調べようとするとなかなか大変でしたが、実際に住んでいる方のブログなどを参考にしながら、できるだけ「その国らしさ」を表現しています。珍しい妖怪たちを探しながら、外国の暮らしはこんな感じなのか、と子供たちに知ってもらえたら嬉しいです。

――子供たちはいつの時代も、妖怪やお化けに興味津津。せなけいこさんの『ねないこだれだ』など、不思議な世界を扱った絵本もたくさん描かれている。しかしなぜ子供たちは妖怪やお化けが好きなのだろう。

 どんな表現でも「緊張と緩和」が大切だと思うんです。ピリッとした緊張感と、ふっと力の抜けるところが共存することで、表現はより人の心を揺り動かすものになる。考えてみると妖怪もそうなんですよね。暗さと明るさ、怖さと楽しさが共存しています。子供たちはそこに魅力を感じているんじゃないでしょうか。

――現在シリーズの第3弾を制作中というヨシムラさん。日本、海外に続いてハルトたちが向かう先は?

 3冊目では江戸時代などの過去を舞台にしようと考えています。新しいキャラクターとして、可愛らしい妖怪の女の子も登場する予定ですよ。妖怪は描ききれないくらいたくさんいるので、ライフワークとして続けていけたらいいですね。子供たちの喜ぶ顔を見るのが、創作のモチベーション。小学校で開催しているワークショップなどで「妖怪探偵」のキャラクターを描いてくれる子がいると、この仕事に就いてよかったなと思います。

 僕は決して画力が高いイラストレーターではありません。絵がうまい人ならもっとたくさんいます。ただ絵を描くのだけは昔から大好きで、ずっと描き続けていたらプロになれた。将来イラストレーターやマンガ家になりたいと考えている若い人たちには、「思い切ってやってみたら? 続けていれば案外うまくいくよ」と言葉をかけたいですね。このシリーズにも、絵を描くことが楽しくてたまらない僕の気持ちがこもっています。ハルトとイチの賑やかな修業風景から、それを感じ取ってもらえたら嬉しいです。