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ふくざわゆみこさんの絵本「ぎょうれつのできるパンやさん」 香りまで伝わってくる、パン屋さんの温かな物語

『ぎょうれつのできるパンやさん』(教育画劇)より

好きなものがつながっていく温かな循環を描きたかった

――動物たちがずらりと並ぶ先にあるのは、おいしいパン屋さん! 『ぎょうれつのできるパンやさん』(教育画劇)は、ふっくらおじさんのパンがあまりに美味しくて、森中の動物たちがやってくる物語。ふくざわゆみこさんは、これまでも自身の「好き」を物語の源にしてきたという。ふかふかの毛並みをした動物たちと、香りが漂ってきそうなパンは、見る人の五感を刺激する。ページいっぱいに優しさと温かさが広がるその物語には、多くのファンが惹きつけられている。

 ふだんから、好きなものや心惹かれたことを楽しんだり、調べたり、驚いたりしながら、少しずつ頭の中に貯めていくようにしています。特別に「絵本のために」と意識しているわけではありませんが、蓄えたもの同士が思いがけずつながったときに、「あ、これを描きたい」と思う瞬間があるんです。

 『ぎょうれつのできるパンやさん』が生まれたきっかけも、パン屋さんが好きだったから。色とりどりで、さまざまな形のパンがぎっしり並ぶあの空間が好きなんです。食べ物に限らず、好きなものから広がって、同じものを好きな人たちへ自然につながっていく──そんな温かな循環のような世界を描きたいと思いました。

『ぎょうれつのできるパンやさん』(教育画劇)より

本当に香ってきそうなおいしさを絵本に

――『ぎょうれつのできるパンやさん』は、ふっくらおじさんが新装オープンしたお店が舞台だ。ただ、お店の場所は山奥。訪れるのは動物ばかりだが、彼らの口コミによってパンの評判は町中へ広がっていく。本作をはじめ、「ぎょうれつのできる おいしい絵本」シリーズには、「おいしいもの」が登場し、おいしいものに「行列ができる」。楽しい物語は、どのように生まれていったのだろうか。

 お話づくりは、描きたい絵からつなげていくこともあれば、最後のシーンが先に浮かぶこともあります。最終的にバランスを調整していくので、最初から綿密に計画することはあまりありませんね。『ぎょうれつのできるパンやさん』も、空気のいい場所でパン屋さんをしたいという設定だけ決めて描き始めました。

 パンを描くときは、実際のおいしさを思い出しながら描いています。「このパン、パリパリしておいしかったなあ」とか。うまく描けたときは、嗅覚がバグを起こしたみたいに、絵から香りがしてくる気がするんです。

 登場する動物の毛並みも、思う柔らかさが出るまで描き込みます。触ったとき、柴犬のふわふわと猫のふわふわは違いますよね。同じ「ふわふわ」でも毛糸とも違う。その違いをよく思い出しながら描いています。

『ぎょうれつのできるパンやさん』(教育画劇)より

 読者のお子さんが、絵本の絵を描いて送ってくださることも多いんです。私自身も子どもの頃、本を見ながら絵を描いていたので、懐かしくて少し気恥ずかしくて……でもとても嬉しい気持ちになります。

 印象的だったのは、直角三角形にオレンジを塗っただけの絵が届いたとき。横に「やまね」と書いてあって、その三角形がすごくヤマネっぽいんです。私の絵本「おおきなクマさんとちいさなヤマネくんシリーズ」を見て描いてくれたと思うのですが、芸術的でかっこよくて、忘れられません。

インスピレーションはここにあるすべてのもの

――森の中の木でできたレストランや牧場の風景など、自然の背景描写も魅力のひとつだ。ふくざわさんに自然の多い環境で育ってきたのかと尋ねると、旅先や日常など、いろいろな所でインスピレーションをもらうと言う。

 旅行は定期的に行きます。体力と行動力さえあれば、いろいろな場所に住んでみたいくらい。森の匂いがする場所や、きれいな魚が泳ぐ南の海、知らない町の暮らし……。ただ、絵本のために旅をすることはありません。いま自分がいる場所のすべてがインスピレーションの源になっています。何かおもしろいと思ったら、スケッチするようにしていますね。

 道に草が生えて、花が咲いて、やがて枯れていく。そんな様子をぼーっと見るのも好きなんです。いつも通る道だと、定点観測ができます。同じ道でも、年によって生える雑草が違うので、気になったらアプリで調べたりもします。

 私はつねに「小学校低学年くらいの視点」で描いているんだと思います。幼い頃は、団体行動で移動しているときに、はねているバッタを追いかけて怒られるような子だったんです。いまも子どもの視点で「何が楽しいかな?」と考えながら描いています。

――「ぎょうれつのできる おいしい絵本」シリーズは、これまでに全9冊。パン屋さんに始まり、スープ屋さん、はちみつ屋さん、ケーキ屋さん、レストラン、チョコレート屋さん、スパゲッティ屋さん、アイスクリーム・かきごおり屋さん……そして最新作は、カピバラのサンドイッチ屋さんだ。

『ぎょうれつのできるサンドイッチやさん』(教育画劇)より

 最初からシリーズにしようと思っていたわけではなく、1冊1冊描いていたら、いつの間にか9冊目になっていました。とても幸せなことだと思っています。

 シリーズの舞台は、食いしん坊な動物たちが住む「ぐうぐうやま」。主人公は毎回変わり、それぞれの物語で、それぞれの思いや困りごとが「おいしいもの」と出会うことで少しずつ解決していきます。最新刊『ぎょうれつのできるサンドイッチやさん』では、ラストの行列に、シリーズのほかのお話の主人公たちも登場しています。ぜひ探してみてください。