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「絶望の林業」書評 環境も経済も持続へ 希望探る

評者: 石川尚文 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月12日
絶望の林業 著者:田中 淳夫 出版社:新泉社 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784787719195
発売⽇: 2019/08/06
サイズ: 19cm/301p

絶望の林業 [著]田中淳夫

 日本は国土の3分の2を森林が占める。その4割が木材利用のためにスギやヒノキなどを植えた人工林だ。政府は近年、林業の成長産業化を掲げている。今春には森林整備をめぐる新法が施行され、住民税に1人当たり千円上乗せする森林環境税も2024年度から導入される。
 こうした動きの一方で、肝心の林業の実情を一般向けに紹介する書籍はあまりなかった。本書は、長年にわたって現場を取材してきたジャーナリストによる日本の林業の現状報告だ。タイトルにもあるように、その認識はかなり厳しい。
 まず、政府の言う「成長産業化」は、机上の空論だと断じる。木材生産が増えたとしても、林業の経営は多額の補助金に支えられてようやく成り立っているのが実態だからだ。
 それでも国産材の利用が増えればいいのでは、と思うかもしれない。林野庁は近年、人工林の半数以上が「主伐期」を迎えていると言う。樹木が育ち、収穫期になったといった意味だ。だが、著者は国が補助金を出してまで主伐を後押しすることを批判する。
 大規模な伐採の後の現場を歩くと、次の苗木を植えつける再造林が行われていない地域が目につくという。場所によっては跡地の「約6割が再造林されていないという報告がある」。経済面から言っても、利益が出ないときは「『市場の見えざる手』によって供給量を絞るのが通常の考え方ではないのか」と指摘する。
 産業としての林業を否定するわけではない。経済行為と環境維持は相反しない。双方に大切なのは「持続すること」だという。
 「商品製造に数十年」かかるという他産業にない特性をもった林業を、スピードを増す世界経済にどうマッチさせるのか。3年で担当が変わる官僚に、数十年という超長期の視野をもった計画が担えるのか。並ぶのは難題ばかりだが、著者が考える希望への「手がかり」も示されている。
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 たなか・あつお 1959年生まれ。フリーの森林ジャーナリスト。著書に『森林異変』『樹木葬という選択』など。