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タトゥーだらけの青年が思い描いた平和とは?  PEAVISの1stアルバム「Peace In Vase」に影響を与えた3冊

文:宮崎敬太、写真:佐伯航平

世の中がヘイトであふれているからこそピースを歌う

 「『先輩、LSD持ってませんか?』。数年前のある日、10代の後輩にそう聞かれたんです。最近のUSの若いラッパーはリーンやザナックスのようなドラッグをよくやっていて、PVにも出てくる。おそらく後輩はそういうのを見て、ものすごく軽いノリで興味を持ったんだと思います。僕はドラッグ自体は否定しません。それぞれがそれぞれの判断でやればいいと思ってる。ただ、悪い面があるということも知っておいてもらいたい。

 僕は15歳くらいから福岡・博多の親不孝通りに入り浸ってました。いわゆるストリート育ちってやつです。悪いことも結構やってきました。楽しかったけど嫌なこともあった。友達が覚醒剤でボロボロになってしまったり、精神病になっちゃったり、捕まっちゃったり。

 人生の酸いも甘いも嚙み分けて手を出すならまだわかるけど、僕は10代にドラッグなんて必要ないと思う。だから後輩がカジュアルにドラッグに手を出そうとしてることが、ものすごくショックだったんです。昔はドラッグのことも歌っていました。『これも自分のリアルだし』って。けど徐々に、僕の歌の影響で誰かがドラッグに手を出してしまうのは嫌だと思うようになってきて。2015年にYelladigosを結成したタイミングで、歌う内容も変えることにしました」

 PEAVISは11月6日に1stアルバム「Peace In Vase」をリリースする福岡出身のラッパー。自身も話すように以前は博多の親不孝通りをレペゼンするストリート仕様のラッパーだった。しかし人間関係に悩む時期もあり、以降はピースを信条にするようになった。もちろん彼が現在所属するグループ、Yelladigosも同じマインドを持って活動している。

 「タイトルの『Peace In Vase』は直訳すると『花瓶の中の平和』という意味。花瓶は人間の心とか、地球とか、世界とかをイメージしてて、その中で感情の花が咲いてるというニュアンスでこのタイトルにしました。最近、世の中がヘイトであふれていると思うんです。しかも勢いは日に日に増している気がする。もうYelladigosの1ヴァースだけでは、言いたいことが足りなくなってしまったので、今回ソロアルバムを作ることにしました」

PEAVIS 'Perfect View'

絶望を予見しながら未来に希望した手塚治虫

 そんな彼のマインドに大きな影響を与えたのが、手塚治虫のエッセイ集『ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ』だ。

 「この本は手塚治虫さんが亡くなる直前まで書いていて、これまでどういう意図でマンガを描いてきたか、また過去の作品に込めた思いなどについて語っています。例えば、『鉄腕アトム』はそもそも人工知能の哀しさをテーマに描こうとしてたけど、子供向けのアニメとしては暗すぎるとテレビ局から言われて、わかりやすいヒーローものになったとか。手塚さんがすごいと思うのは、ものすごく先が見えていたということです。最後の章で『独断と偏見で未来予想をしてみましょう』と前置きして、『日本人は来世紀(21世紀)には平均年齢が90歳を超え、80歳まで働くようになり、若者の数が極端に減って、老人大国になります』『医療は発達して病気はなくなりますが、脳の老化現状や精神障害は増え続けるでしょう。その介護に介護ロボットが活躍します』と言ってるんです。これを昭和の人が書いたと思うとあまりのすごさに閉口してまう。そんな絶望的な未来を予見してても、手塚さんの創作テーマは『未来の子供たちにいい影響を残す』ということだったんです。

 今回のアルバムに入ってる『Mirai』という曲はまさにそういうイメージで書きました。あと『AKIRA』ですね。昭和に描かれたSFマンガだけど、舞台はまさに2019年なんですよ。あの頃の未来は現在になってる。じゃあ、その現在はどうなってるんだっけって。僕は今の世の中がしょうもないと思ってるけど、『人を恨むより自分をRespect / 今こそネガティブは放り捨て』だと思う。悲観するんじゃなくて、ポジティヴに行動すべき。この連載にも出ていた田我流さんDaichi Yamamotoくんが参加してくれています」

難しいことをわかりやすく簡単な言葉で表現したい

 さらに騙し合いや足の引っ張り合いといったストリートのヘイトを見てきたPEAVISは、意外な本に感銘を受けた。

 「『神との対話―宇宙をみつける自分をみつける』という本はYelladigosのメンバーが貸してくれました。著者のニール・ドナルド・ウォルシュさんが、ヘイトにあふれる世界の現状をみかねて、自分が神と対話するという形で書いた本です。めちゃくちゃ壮大だからちょっと引いちゃう部分もあると思うけど(笑)、お金の性質について話してるとことかは結構真理だなと思いました。世の中の人は、みんな自分の財産がどれくらいあるかを言いたがらないじゃないですか? でもそのせいで『俺は金がないのに、あいつは持ってる』とか勘ぐりが生まれる。ウォルシュさんは『頭のいい会計士なら企業の金を隠したり消滅させる方法をいくらでも考えつく。金は隠せるから他の人がどれくらい持ってるか、それをどう使ってるかわからない。それが不平等の温床になってる』って。

 こういうの、感覚ではわかってたんですよ。だってストリートで起こる問題はいつもカネがらみだから。でも僕も含め、今はほとんどのやつらが金を持ってない。なのにインスタで見栄を張ったりする。そこから無意味な勘ぐりが生まれる。そういうのって空虚だと思う。こういう考え方が『Peace In Vase』の根底にある。実は結構小難しいテーマの作品なんですよ(笑)。でも難しいことを難しいまま言うより、簡単にわかりやすく言うほうがすごいと思う。トラックもメッセージやテーマありきで選んでいきました。大好きなトラックメイカーたちが素晴らしい曲を提供してくれたので、本当にありがたかったですね」

ペインを知っているからピースを表現していきたい

 さらに自身のアルバム「Peace In Vase」を、とある人気マンガに例えてくれた。

 「最近『ONE PIECE』がヤバいんですよ。子供の頃はよく立ち読みしてたんだけど、だんだん読まなくなってきちゃって。でもこの前、コンビニでなんとなく立ち読みしたら、日本っぽい国が舞台になってたんですよ。で、よく行くスパゲッティ屋さんに全巻揃ってたので、久しぶりに読んでみたら思ってた以上にすごいことになってた(笑)。

 『ONE PIECE』は“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を求めて、主人公のルフィと仲間たちが旅をするというストーリーなんです。仲間の大切さとか、友情とか、いわゆる少年マンガっぽいストーリー。今やってる日本っぽい国は“ワノ国”と言います。鎖国してたり、侍が出てきたり。でも庶民はゲトーに住んでて、工業からの汚染水に苦しんでるんです。しかも支配者は庶民が公害に苦しんでいる顔を見たくないから、笑顔以外の表情を奪っちゃったんですよ。

 これってまさに今の日本みたいですよね。みんなすごい辛くても作り笑いしてなんとか頑張って働いて。あと汚染の描写も僕は放射能のメタファーだと感じました。つまり“ワノ国”の人たちの苦悩は、現実の日本に暮らす僕らの苦悩と同じなんですよね。『ONE PIECE』って本当に子供から大人まで読んでる超人気マンガなのに、実はかなり深い(笑)。“ひとつなぎの大秘宝”を見つけるためには、遺跡に描かれてる古代文字を解読しなくてはいけないんだけど、それを読める学者が政府から抹殺されてたり、世界を牛耳ってる天竜人が人身売買をしてたり。さりげなく風刺が入ってるんです。

 『ONE PIECE』ってもう20年も連載してるんですけど、今こんな話を描くのはマジでヤバいなと思う。手塚先生は『ガラスの地球を救え』で、エンターテインメントの中に意識的にシリアスなメッセージを込めていたと書いていたんですが、『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生もそのイズムを継承してると思う。手塚先生は、子供に現実にある絶望をそのまま伝えるのもよくないと話してて。だからと言って伝えないのはもっと良くない。だからわかりやすい作品の中に潜ませたって。今回紹介した3冊はすべて僕のソロアルバム『Peace In Vase』に大きな影響を与えています。

 実は僕、小学生に入るまで父親という概念を知らなかったんですよ。母は籍を入れずに僕を生んで、祖父と祖母と一緒に育ててくれました。祖父と祖母は本当にかわいがってくれたから一度も寂しいと感じたことはありませんでした。今思えばあの頃は本当に平和で素敵な時間だったと思う。でも小学校に入って、友達の家に行くと、当たり前ですがみんなには父親がいるんですよ。そこで初めて僕は『僕には父親がいないんだ』とわかったんです。その時、言いようのない孤独を感じました。同時に『僕は何者なんだ?』と思うようにもなった。後から聞いた話ですが、僕は小学校に入った当初はずっと泣いていたそうです。そこからグレるようになったんです。

 でも僕がイメージする平和って、父のことを知らず、祖父と祖母に一緒に過ごした時間なんです。本当に愛があふれてた。だって父の不在を感じさせなかったんですから。僕はペインを知っているからこそ、自分の作品ではピースを表現していきたいんです」