「MMT現代貨幣理論入門」書評 経済の変化を映す 堅実な議論
ISBN: 9784492654880
発売⽇: 2019/08/30
サイズ: 20cm/536,15p
MMT現代貨幣理論入門 [著]L・ランダル・レイ
巷ではトンデモ理論扱いされるMMTであるが、本書を読む限り、この理論に奇想天外なところはない。それどころか、極めて堅実な基礎の上に構築されているという印象さえ受けた。
経済の重心はメインストリート(実体経済)からウォールストリート(金融経済)に移りつつあるのに、貨幣はいまだに、実体経済に埋め込まれた交換の手段と見なされがちである。ゼロ金利政策を採っても設備投資は増えず、量的緩和策に移行しても貸出量は増えない。これは量の問題よりは経済の変質に起因する質の問題と見るべきなのだ。
MMTは金融政策の限界を踏まえた財政政策重視の貨幣理論である。金融と財政を別々の部屋に入れるのではなく、両者を「貨幣理論」として融合させる。このことは中央政府と中央銀行を(広義の)政府として一括するところにも表れているが、本質は次の2点である。
一つは、「租税が貨幣を動かす」ということ。政府の発行する貨幣は政府の債務証書であるが、それが広く受け入れられているのは、米や砂糖ではなく、この証書で租税を支払うことが義務づけられていることに淵源する。
二つは、政府の支払い能力に限界はないということ。金本位制や固定相場制を採る国は金や外国通貨の準備に不足すればデフォルトに陥る可能性があるが、このような制約のない変動相場制下の主権通貨にはデフォルトの危険はない。
批判が集中するのは後者に対してである。主権通貨とはいえ、やみくもに紙幣を増刷すればインフレを招く。著者はこうした批判に逐一反論を加えている。著者もいうように、MMTは政府、銀行、企業・家計間の決済方法や、バランスシート上のオペレーションなど、制度的事実から導かれた理論である。理論の当否は事実によって決すべきで、事実のチェックを素通りした論争は不毛な空中戦に終わるだろう。
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L.Randall Wray 米バード大教授(貨幣理論、金融政策など)。ポスト・ケインジアンの代表的論者の一人。