1. HOME
  2. 書評
  3. 「中国くいしんぼう辞典」書評 土地の食べ物こそが文明の根本

「中国くいしんぼう辞典」書評 土地の食べ物こそが文明の根本

評者: 出口治明 / 朝⽇新聞掲載:2019年11月30日
中国くいしんぼう辞典 著者:崔 岱遠 出版社:みすず書房 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784622088271
発売⽇: 2019/10/17
サイズ: 20cm/365,8p

中国各地の料理を、「家で食べる」「街角で食べる」「飯店(レストラン)で食べる」の3部構成で紹介。南北にわたって関わりあうさまざまな食べ物から人物、店、故事来歴までを、素朴…

中国くいしんぼう辞典 [著]崔岱遠

 中華料理が好きな人には至福の1冊だ。吃貨(チーフォ)と呼ばれるくいしんぼうの著者が、ネットを介して得た粉糸(フェンスー=ファン)のコメントを参考に、約100皿の中国版美味礼賛を書き上げた。著者は、「土地に馴染み、庶民に根づいた食べ物こそが文明の根本だ」と考える。何人家族かと尋ねられれば、「3人」とは言わず「3口」と答えるのが中国だ。書き出しからもうワクワクする。
 本書は「家で食べる」「街角で食べる」「飯店(レストラン)で食べる」の3部構成となっている。家の字は住む場所を示すかんむりの下に1頭の豚がいるということで、もちろんこの豚の肉を食うためだ。その代表が普段のおかずではないが、紅焼肉(ホンシャオロウ=豚の角煮)だ。蘇東坡が愛した紅焼肉は杭州の名物料理、東坡肉(トンポーロウ)となった。
 上海の街角では生煎(サンジー=焼き小籠包)が有名だが、食べ方にはコツが要る。下手にかぶりついたら煮えたスープが飛び散るからだ。
 飯店では、まず白切鶏(パイチエジー=蒸し鶏)。上古の祭祀では丸のままの牛、豚、羊を鼎(かなえ)の中で煮、大皿にのせて捧げた後の肉は刀で薄く切り、みそなどを塗って家臣に下した。これが割烹(かっぽう)の語源であるが、丸煮の遺風を留めているのが白切鶏だ。
 世界中で人気のある古老肉(グーラオロウ=酢豚)は、広州で西洋人の好みに合わせウスターソースを使って新しく作られた創作料理だった。牡丹燕菜(ムーダンイエンツァイ=大根の細切りスープ仕立て、卵で作った牡丹の花を添えて)は、武則天と周恩来の2人が千年の時を隔てて命名した名菜である。なぜ、この2人が。それは本書を読んでください。あぶる烤鴨(カォヤー=アヒルのあぶり焼き)、中でも有名な北京ダックは、清末に発明され1930年代になって人口に膾炙(かいしゃ)し始めた。
 と、ここまで書いてきただけで、よだれがたれてきた。ああ今すぐ中国に飛んでいって、腹いっぱい中華料理を食べたい。添えられた美しい挿画がさらに食欲をそそる。
    ◇
さい・たいえん 1968年、北京生まれ。文筆家、編集者。古い習俗や食文化に詳しく新聞やテレビなどで活躍。