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スズキナオさん「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」インタビュー 日常の延長で楽しむこと

スズキナオさん=小川泰弘撮影

 深夜バスで隣に座った見知らぬ人との不思議な連帯をかみしめる。友達の実家のラーメンを食べに出かけてみる。唐揚げの個数まで支払いを分ける割り勘の飲み会を開く――。「“平熱”のまま出来る楽しみをたくさん見つけたい。それが人生をちょっとずつ楽しくすると思うんです」。ウェブを中心に活動してきた注目の書き手が、初の単著を出した。

 東京のIT系広告会社で働いていたが、2014年に妻の実家のある大阪へ移住したのを機に、専業のライターに。当初は仕事もなく、友人の多い東京と大阪を深夜バスで頻繁に行き来する日々。お金をかけずにあちこち訪ね、出会った人やお店を取材した。「日常の延長でなだらかに伝えたい」と、何が気になったのか、取材の理由から、実際に見たもの、やったことまでを書く。担当編集者いわく「右肩下がりの時代のひとつの生き方の記録」。それは現状肯定ではない。一緒に出かけているような感覚で読み進めるうち、自分の周囲も違って見えてくる。

 「なんでもない場所、みんなが通り過ぎている場所を楽しんでやろう」という、力みのない意気込みがそもそもの姿勢。その極みが、酒場の記事が多いライター・パリッコさんとのユニット「酒の穴」で編み出した「チェアリング」。折りたたみのイスを持ち歩き、気に入った場所に座ってのんびり過ごす。川面の波紋を眺め、風に揺れる木々を眺め、チビチビ酒を飲む。「美しい景色じゃなくてもいい。近所のどうとも思ってなかった場所でも、よく思えるんですよ。それが楽しければ、生きていける気がしている」

 「面白がり方が近い」というパリッコさんとの共著『“よむ”お酒』(イースト・プレス)も発売されたばかり。たたみかけるような脱線が味わえる対談は絶妙だ。(文・滝沢文那、写真・小川泰弘)=朝日新聞2019年12月7日掲載