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「農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦」 常識に縛られず、画期的技術で新風

 以前、農業関連のソーシャルビジネスを取材していたとき、農業ほど創意工夫が必要な仕事はないと聞いた。本書に登場する「ネクストファーマーズ」の活躍は、その言葉を裏付ける。彼らは常識に縛られない発想で、最先端のテクノロジーなどを導入。衰退産業とされる日本の農業に新風を吹き込んでいるという。

 “渋谷ビットバレー構想”を先導した有名IT投資家など、イノベーターたちの経歴も多彩だ。転職物語としても興味深く、「世界一」の落花生をつくる元エリート会計士もいれば、外資系化学メーカー出身の梨農園マネジャーもいる。だが、カタログ的に事例を詰め込んだせいか、個々のエピソードがやや薄味になっているのが残念だ。

 自然の力で害虫を駆除する「スーパー堆肥(たいひ)」など画期的な技術にも瞠目(どうもく)する。出色は岡山の鬼才が編み出した「凍結解凍覚醒法」だろう。この技術を使って、糖度2倍、皮まで食べられる初の国産バナナを開発し、無農薬・無化学肥料で栽培。今年は年商10億円を見込むという。同技術を応用すれば、シベリアの永久凍土で小麦や米を生産することも夢ではないとか。食料危機から世界を救うかもしれない希望の“種”である。=朝日新聞2019年12月7日掲載