1. HOME
  2. 書評
  3. 「列島祝祭論」書評 芸能と権力の源へ「解釈の革命」

「列島祝祭論」書評 芸能と権力の源へ「解釈の革命」

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2019年12月14日
列島祝祭論 著者:安藤 礼二 出版社:作品社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784861827730
発売⽇: 2019/10/21
サイズ: 20cm/359p

列島祝祭論 [著]安藤礼二

 日本列島における祝祭と芸能はどのように発展してきたのか、それは結局のところ何であったのか。柳田國男の民俗学、折口信夫の古代学、井筒俊彦の東洋哲学を独自に読み解くことで、壮大な展望を示したのが本書である。
 探求の旅は、能の「翁(おきな)」から始まる。能を確立した世阿弥とその後継者であった金春禅竹(こんぱるぜんちく)の議論を分析することで、著者は「翁」の中に神道的な古代と仏教的な古代の結合を見る。それはいわば、東アジアにおけるシャマニズムと、インドから遠く伝わった仏教が、極東の列島で独特なかたちで融合したことを意味する。
 本書の議論が魅力的なのは、安易に「起源」を求めないことだ。それよりも複数の宗教や思想が混交し、「習合」し、独特に反復される過程に、何らかの「原型」を見いだせることに著者は注目する。思えば近世の本居宣長、平田篤胤、近代の柳田、折口、あるいは鈴木大拙らが行ってきたのも、同じ「解釈の革命」であった。そこから著者は、現在の日本の政治や宗教のあり方を根本的に問い直す視座を得ようとする。
 吉野で自然の力を得ることで再生をはかった天武や後醍醐といった天皇たち、アニミズム的世界観と大乗仏教が結びつき、あらゆる人間だけでなく草木の中にも仏の種子を見いだした「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」思想、空海と最澄の息のつまるような対決と接近、そして山中を駆け巡る、小角(おづの)を始祖とする修験の行者たち。本書を読むものは、日本列島で繰り広げられた数々のドラマを知ることだろう。
 何より「神憑(かみがか)り」に象徴される、自らの身体を通じて神の霊魂の力を受け入れ、解き放つ技法に、宗教と芸能、そして権力の源を見いだす著者の議論は魅力的だ。そして近代日本における独特な「政教分離」の歪みについても思いを新たにするきっかけを得る。日本列島をユーラシア大陸に解き放つ知的試みを堪能できる一冊である。
    ◇
あんどう・れいじ 1967年生まれ。文芸評論家、多摩美術大教授。著書に『折口信夫』『大拙』など。