渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が先月発売の第14巻で完結した。2011年に第1巻が刊行された本作は、『このライトノベルがすごい!』(宝島社)の作品部門ランキングで14年から3年連続1位を獲得して殿堂入りし、来年春から放送開始予定の新作も合わせ3度にわたりアニメ化もされた、シリーズ累計1千万部突破のヒット作だ。
ストーリーは、ヒネクレ者の高校2年生・比企谷八幡(ひきがやはちまん)が奉仕部なる部活に入れられ、そこで出会ったヒロインたちと学内の問題を解決していくというもの。「残念」なキャラクターたちの部活ものというと、なんとなく既視感を覚えるが、本作の特徴は舞台となる学校を、スクールカーストに支配され、誰もが空気を読み合う息苦しい場所として描いた点にある。
ライトノベルの対象読者は主に10代だ。だからこそ、そこでは時に、個性的なキャラの織りなすエンターテインメントであるだけでなく、若い読者が現に抱く切実な悩みに寄りそうことが同時に求められたりする。本書の登場人物たち……とりわけ主人公の八幡は、まさにそれに応えた存在だったと思う。自虐満載の冗舌な語り口で読み手を笑わせるだけでなく、問題解決のためなら躊躇(ちゅうちょ)なく悪役を演じる世間擦(ず)れした狡知(こうち)を見せ、かと思えば偽りの人間関係を嫌い「本物」を求めて苦しむ純粋さも隠し持つ……。そんな複雑な自意識を抱えた人物として描かれる彼は、誰かを助けるためならば、孤立も誤解も厭(いと)わない(アンチ)ヒーローであると同時に、10代の読者たちが実際に直面している生きづらさを代弁する等身大の登場人物でもあった。
みずからが「自意識の化け物」と呼ぶほどに厄介な内面を持つ八幡、そして彼に負けず劣らず複雑な心理を抱えたヒロインたちに向き合い続け、見事、完結を迎えた本作。今後も長く、若い読者に読み継がれていってほしいと思う。
くわえて本作からは、教室の人間関係をゲームのように「攻略」していく屋久ユウキ『弱キャラ友崎くん』(ガガガ文庫)、リア充側から教室を描く裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』(同)など、アンサーとも言うべきタイトルが生まれている。本作が生み出した潮流の行方も、著者の今後とともに楽しみにしている。(ライター)=朝日新聞2019年12月21日掲載