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いいねの数とランキングでは得られない本を求めて 奈良・東吉野の山奥のブック・マルシェ「山學 本の日」に行ってきた

 ふるさと村までは近鉄西大寺駅から電車を乗り継ぐこと2回。榛原(はいばら)駅に到着。そこから菟田野(うたの)駅までバスで。さらに、土日予約制のコミュニティバスに乗り換える。待っていたのは8人乗りの普通のバン、乗客はわたしだけ。これからどこに連れて行かれるのだろう。

 バスはのどかな田園地帯を走り抜け、どんどん山の中へ。川沿いには、集落が現れてはまた消え、どこまで奥へ行っても人が住んでいる気配が途絶えることはない。と、水の神、雨の神をお祀りすることで知られる丹生(にう)川上神社が現れた。看板を見ると、そこからさらに6キロあるという。山道を上り、川の向こうに現れたのはこぢんまりした木造の建物。築100年の廃校を利用したふるさと村。8時すぎにうちを出たのに、もう11時半を過ぎていた。

 やっと到着。バスを降りると川の音が聞こえてきた。冷たい空気は刺すようで、まちよりも心持ち気温が低く感じられた。会場である懐かしい感じの木造の建物に足を踏み入れる。今日は奈良県、京都府、三重県から個人経営の書店や古書店、カフェ9店舗が集っている。それぞれ山や奈良や暮らしを切り口にした選書で、それぞれ個性があって目を楽しませてくれる。まだ午前中のせいか客足は少ない。

 12時を過ぎると、だんだんとお客さんが増えてきた。車の本を持ってうれしそうにお母さんに駆け寄って行く男の子がいたので、お母さんにお話を聞いてみる。「今日は予定がなくて、たまたまインスタでイベントを見つけて、本も好きだし行ってみようかって来ました」。

 午後になると、いかにも本好きそうな熱心に棚を覗き込む人、どれを買おうかじっくり選ぶ女性、子連れの家族、大学生くらいの若者など、お客さんが入れ替わり立ち替わり。「カフェやまぼうし」のブース周辺からはいい匂いが漂ってきて、お菓子やコーヒーを楽しみながら、この時間を思い思いに過ごしている。

 三重県尾鷲市の「トンガ坂文庫」のブースで店主の本澤結香さんと楽しそうに話している女性に話しかけてみた。「彼女とは友達で、奈良市から会いにきました。今子供の本を選んでもらっているところです。普通は本屋さんで本を選んでもらったりすることがないので、うれしいです」

京終(きょうばて)やまぼうし
 ずっと奈良に住んでみたかったという吉岡幸子さんが家族の大阪転勤により、会社勤めを辞めて奈良の古民家に引っ越したことをきっかけにオープン。趣味で習っていたヨーロッパの伝統のレシピを使った焼き菓子を中心にしたカフェ。
 毎月第4金・土営業(11:00~18:00)  ※営業日はインスタグラムで要確認  奈良市北京終町17
https://www.instagram.com/yakigashi.kyobate.yamaboshi/

 ところでこのマルシェは、東吉野村で学びの場を作る「山學院(やまがくいん)」という取り組みの一環だそうだ。前日には「『答えのない時代』と仕事」をテーマに、奈良県立図書情報館の図書・公文書課課長の乾聰一郎氏をゲストに、参加者たちがそれぞれの仕事について語り合った。山學院の運営者の1人である東吉野村在住のデザイナーの坂本大祐さんに話を聞くことができた。

 坂本さんによると、東吉野村にやってきたのは2006年だが、「2015年くらいまで村に同世代はいなかった」そうだ。デザイナーの菅野大門さんの移住を機に、2015年に坂本さんの発案で県や村の協力のもと、シェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」ができた。坂本さんは現在その代表も務めている。この場のおかげで、東吉野村に移り住む20〜40代の人は増えてきた。ところが最近ある思いを抱くようになってきた。

 「2015年くらいに移住してきた人たちに子供が産まれてきて、その子たちがどんどん大きくなってきている。この子たちはこれからどんな教育を受けるんだろうという気持ちから、今後のことを考えるようになりました。

 地方移住する人が増えてきたと言われていて、自分たちのような暮らし方が当たり前だと思ってしまうけど、世間的に見たらまだまだ都会で稼いで暮らす人の方が多いです。自分たちの暮らし方も年を取ったら、一時的なブームで終わってしまいます。さまざまな世代に影響しあえるといいなと思い、自分たちの暮らし方や考え方を『教育』や『学ぶ』といったフォーマットに落し込めないかと思うようになりました」。

 そこで、思いを共にする同世代の青木真兵さん、アーティストの武田晋一さん、デザイナーの菅野大門さん、写真家の西岡潔さんらとともに、東吉野村での学び場づくりを始めることにした。みな2015年ごろに東吉野村にやってきた人たちだ。

左が坂本大祐さん、右が青木真兵さん

 マルシェのお客さんで、前日の山學院にも参加していたという人たちがいたので、感想を聞いてみることにした。

 乾氏と同様に奈良県立図書情報館に勤めているという女性は「みんなそれぞれのやり方でテーマについて考えているのが印象的で、自分もそうありたいと思いました。例えば、週5で働いて、仕事と趣味は別という世間の常識があると思うのですが、今回出店しているやまぼうしさんは月2回のカフェで、『やっていけるの?』って言われても、『自分が好きでやっている』そうで、そういう世間に縛られない姿勢が大事だと思いました」。

 また、現在フリーターで公務員の勉強中という神奈川から参加した男性は「自営業の人やどうやってお金を生み出しているかわからないけど、公共的なことをやっている人など、おもしろい人が多く集っていました。そういうことは無理に仕事にしないとと意識しなくても、気張らないでできるんだなと思って肩の力が抜けました」。

 このように、山學院は学びの場といっても、具体的に何かカリキュラムがあってそれを習得したり、問題を解いてはっきりした答えを求めたりする類いのものではなく、講師の話を聞き、参加者同士で話し合い、フィードバックを受けながら自身で考え、生き方に還元していく場のようだ。

山學院の学則。学長は思想家で武道家の内田樹氏。

 山學院と今回のマルシェの運営者でもある青木真兵さんと青木海青子(みあこ)さんに山學院のテーマでもある「答えのない時代」と仕事について聞いてみた。

 二人は2016年に東吉野村に移り住み、自宅を開いて私設図書館「ルチャ・リブロ」を営んでいる。10月に上梓したばかりの二人の初めての著書『彼岸の図書館』(夕書房)によると、真兵さんは古代地中海の研究者を志していたが、現在は社会福祉法人で障害者の就労支援の仕事をしている。海青子さんは長年大学図書館で働いてきた。しかし、二人とも「体調の問題がきっかけで都市部での生活がしんどくなった。都市にいると家賃がかかるので、収入をある程度以下には落せない。そういう経済的な問題も生きづらさにつながって」(65ページ)東吉野村に住むことにしたそうだ。

左が青木海青子さん、右が青木真兵さん

 例えば、「お金だけじゃない価値観もある」と私設図書館をやっているのに、それがなかなか伝わらなくて、よく「どうしてそれでお金を稼げるわけでもないのにやっているの?」と聞かれることがあるそうだ。

 海青子さんはそれに対して、「わたしたちは賃労働もやりつつ、図書館をしています。わたしたちは『お金じゃない』じゃなくて、『お金だけじゃない』と言っているので、賃労働を全部否定しているわけではないんです。『全部お金じゃない』と言ってしまうと、『全部お金だ』と言っているのと同じになってしまいます。それでは思考停止になってしまいます。そうじゃなくて、考えつづけた結果の落しどころを探していきたいんです」。海青子さんにとっては、ルチャ・リブロはその落としどころの一つなのだろう。

人文系私設図書館ルチャ・リブロ
(オープン、行き方については、HPより問い合わせを。https://lucha-libro.net/)

 真兵さんは「『彼岸の図書館』には『リカバリーの物語』と書いてあるので、(研究から)逃げたとかドロップアウトしたみたいに取られることもあるんですが、僕は降りたとも降りてないとも思っていないんです。最近、それは上り下りできるものだということに気付きました」と言う。例えば大学に就職しようとすると、沖縄から北海道まで受けないといけない。だけど、それができるのはガッツのある限られた人だけだ。だからといって諦めるのではなく、非常勤を続けながらほかに仕事を持つとか、ルチャ・リブロのような自分で研究できる場を作って、自分の研究したいことを続けて行くというような道もあるのだと気づいたそうだ。「その『何か』を既存のものに当てはめて目指すというのではなくて、自分がいいなと思うことを無理しない範囲でやるのが大事だとわかったんです」

ちなみに筆者は海青子さんのオススメする『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』小野寺伝助(地下BOOKS、2019年)を買ってみた。

 真兵さんは現代を「数値化して分析して最適解を探す」時代だと言う。しかし、その割には「その最適解が誰にとってのものなのか?」と問われることは少ない。そして、「その最適解が自分たちにとっての解ではない」と思っていても、そもそも最適解以外の解があると気づくことすらできなかったり、気づいていても口にしたり、実行しにくかったりする雰囲気がある。

 今回集っていたお店は、週5〜6日きっちり開けているところだけでなく、週末だけや不定期営業のお店、店舗を持たない委託型書店など、それぞれの性格や生活ペース、資本に応じて、自分たちができる範囲で、それぞれにやりたいことを実現していた。そのように暮らしている人に実際に会うのは、何よりの学びだろう。

 そして、そこには、ネット書店や大手書店では流通していない古い時代の本や個人出版の本があり、店主との会話から本との偶然の出会いが待っている。確実に欲しい本を買うならネット書店や大型書店がいいだろう。しかし、日常から離れ、都会から離れた山の中に行くことで、気持ちがゆるんだり、いつもとは違う勘がはたらいたりして、違った視点で本を選べることもある。

 情報は検索ですぐ見つかるけど、いいねの数やランキングで見つからないものは、「おもしろそう」という直感を頼りに自分で探すしかない。それは本に限ったことではないだろう。筆者も含めてここに集った人たちは、それを求めてここにやってきたのかもしれない。

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