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「WORLD HISTORY for High School 英文詳説世界史」 読むも良し、引くも良し

 幾通りもの読み方ができるから面白い一冊になっている。まず「世界史」を訳して“WORLD HISTORY”になっているところ。その言葉から英語圏で連想するものはかなり違う。学校教育の「日本史」に対しての「世界史」ではなく、前世紀末から日本を含めた各国で広がりを見せている歴史学の一分野が思い浮かぶ。グローバルな視点から国民国家によって切り分けられた文化や貿易や武力衝突などを相対的に捉えようとする思考である。欧米中心の史観を是正する狙いがあって、欧米でも研究者の層が厚い。

 元々日本の「世界史」にはこういう観点が含まれるとは限らない。しかし本書は日本で編纂(へんさん)されたものだけあって、構成に欧米でよく見るそれとは異なるスタンスを随所に示している。

 中世を描く第二部ではイスラムと西欧とアジアに世界を三分割し、第三部では「アジア諸地域の繁栄」から近世世界を立ち上げ、十九世紀を「アジア諸地域の動揺」と国家主義の台頭によって締めくくっている。冒頭「世界史への扉」でも、気候変動、漂流民、砂糖という三つのベクトルから歴史の多様性と面白さを訴えている。

 一方、これは無いものねだりだが、教科「日本史」に対する「世界史」になっていることから日本列島の社会と他地域との交流の影が薄いことは否めない。ユルゲン・オスターハメルなど近年の優れた世界史研究者が十九世紀を理解する上では日本の経験は欠かせないと言っているのに、残念に思うのである。

 読むのも良し引くのも良し、というのが一冊の大きな魅力であろう。世界史にまつわる用語を日英両語の索引で瞬時に引けるから私など大助かりだ。

 本文は滑らかで簡潔な英語になっている。手分けして訳したと思われるが、心血を注いだに違いない彼(ら)の個人名を、表紙に書いてほしかった。日本語で生まれた世界史を日本語の外に運んでいくことは、並大抵な仕事ではないからである。=朝日新聞2020年1月18日掲載

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 山川出版社・2970円=3刷1万5千部。19年8月刊行。高校世界史の教科書の定番が英訳された。外国人留学生や海外出張の多いビジネスパーソンが手に取っているという。