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『レスキューナースが教えるプチプラ防災』の著者・辻直美さん「お金をかけずにできる防災術はたくさんあります」

撮影:中惠美子

 人の命は、いつどこで奪われるかわからない。そう意識して普段から防災対策をするようになったのは、旧満州で看護師をしていた祖母の影響が大きいと思います。当時まだ赤ちゃんだった母を命がけで守った話を、祖母から聞いて育った私は、自分の身を守る方法を考えるのが趣味のような人間になりました。タンスの下には新聞を挟んで壁から3センチ以上離す。木造家屋は1階から潰れるから2階で水筒を枕元に置いて寝る。バッグには重いものを上に入れる。祖母から聞いていたこうした基本的な防災の知恵をすぐに実行していたので、阪神・淡路大震災で実家が全壊したときも、家族全員無事でした。

 それを機に、本格的に災害救助活動をはじめた私が伝え続けているのは、「災害が起きた時は、いつ逃げるか、どうやって逃げるか、すべて自分で判断して生き延びてください」ということです。被害に遭って消防に電話しても、つながらなかったり、断られることもあります。「救助隊があなたを探しにくるのは、動けなくなって死にかけている時です」と講演会では言い続けてきました。

 それでもなぜか大半の人は、「自分だけは大丈夫」と思っています。2019年の台風で水害に遭った知り合いの女性も、自宅で足首の高さまで水がきているのに、「自治体から避難指示がないからこの水引くんですよね?」と私にLINEで聞いてきました。そんな風に、自治体や消防、警察からの指示をあてにしている人は助かりません。私が、「今すぐ逃げて!」と指示したら、やっとお父さんと二人で子どもや犬を体にくくりつけて屋根に上がりました。そのあと2階まで浸水しましたが一晩救助を待って助かったのです。私がもしLINEを見なかったら……と考えるとゾッとしますが、残念ながら、彼女のようにのんびり構えている人がほとんどです。

 高齢者には、「もう老い先短いから」と防災も避難もあきらめてしまう人が少なくありません。特に戦中派は、「逃げるのは恥ずかしい」と言って、耐えて我慢するのが美徳だと思っている方もいます。そういう方には、逃げようとしない高齢者を助けるために、子どもや孫までが犠牲になる悲劇がたくさん起きていることを知ってほしいです。

 自然災害は年々増えています。自分と家族の命は自力で守らなければ、誰も助けてくれません。必要なのは正しい知識と、自宅にあるものでサバイバルするテクニックです。「被災したら避難所に逃げればいい」と考えている方が多いのですが、避難所がどこにあるのか、避難所の鍵はどこにあるのか知っていますか? 避難所にたどりついても、プライバシーのない所で寝泊まりするのがどれだけ大変か想像してみてください。でも自宅を災害に強い家にして、避難する必要をなくせば、そのまま留まることができます。お金をかけずにできる防災術はたくさんあります。災害が起きても72時間生き延びるための方法があります。そうした知識を一人でも多くの方に知ってもらいたくて『プチプラ防災』という本にまとめました。本書で、震度6弱の地震で室内がメチャクチャになった隣家とビクともしなかった私の家の写真を見比べると、普段の防災対策が天国と地獄をわけると実感できると思います。

 人は一人では生きていけません。特に独り暮らしの方は、近隣の人たちとのコミュ二ケーションも大事にしてください。防災の基本はコミュニケーション力です。挨拶することで、生き延びる確率はぐっと上がります。これこそ今日から始められる“プチプラ防災”です。