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食べ物描写にはほとばしる感情が大切 矢崎存美さん×友井羊さん「ぶたぶたは美味しい!」トークイベント

文:根津香菜子、写真:北原千恵美

 実はこのお二人、「好書好日」で連載中の「食いしんぼん」1回目(矢崎さん)と2回目(友井さん)に登場いただいた作家さんでもあります。「ぶたぶたは美味しい!」と題したトークイベントでは、小説内の食べ物描写や、作中に出てきた気になるメニューを中心に、オススメのスイーツ店の紹介など、思わずお腹がなってしまいそうな内容で盛り上がりました。「食いしんぼん」担当者が、その様子をレポートします!

パンケーキ、ガレットetc.が登場する「ぶたぶた」

矢崎存美(以下、矢崎) これまでに2回「ぶたぶた」のトークイベントをやっているのですが、「次は食べ物の話がしたい」と思っていたんです。友井さんとは、作家の野村美月さんが主宰する「ケーキ会」で何度もご一緒する間柄だったし、『スイーツレシピで謎解きを』や「スープ屋しずく」シリーズなどを書いていらっしゃる友井さんとなら、美味しいものの話ができるだろうと思って、今回のゲストにお呼びしました。友井さんは、ずっと「ぶたぶた」ファンでいてくださっていたとのことですが、「ぶたぶた」シリーズの中で一番好きな料理は何でしょうか?

友井羊(以下、友井) 全部の作品は読めていないんですけど、『ぶたぶたの食卓』に出てきた塩キャラメルのガレットがすごく好きです。読んだのは上京して大学生くらいの時だったと思うんですけど、今ほどガレットが普及していなかったので「ガレットってなんだ?」と、まず興味を抱いたんです。塩キャラメルというシンプルさも「これは美味しいに違いない」と。その頃、矢崎さんは実際にモデルになったお店も紹介しているんですよね。

矢崎 そうですね。結構ブログとかでも紹介していました。ガレットのお店のモデルは、神楽坂にある「ル ブルターニュ」です。私も初めて食べた時は衝撃でした。

友井 お店はオシャレなビストロなんですけど、入った時に、石臼とかでひいたお蕎麦特有の香りがするんですよね。でもガレットを食べるとフレンチの味がするので、「そば粉ってこんな食べ方もあるのか」とカルチャーショックでした。

矢崎 他に何か気になる食べ物はありますか?

友井 最新刊の『ぶたぶたのシェアハウス』に出てきたおにぎりなんかもそうですけど、いわゆる家庭料理にいつも惹かれて印象に残ります。矢崎さんはどういった基準でその料理を作品の中で出すのか、前からお聞きしたいと思っていたんです。

矢崎 その時自分が食べたいものを書いているだけだったりするんですけど、『ぶたぶたカフェ』のパンケーキはすごく分かりやすくて、その時のマイブームがパンケーキだったんです(笑)。食べ物屋さんの話を書く場合は、実際にお店に取材とか行った方がいいんですけど、私はわりと自分がずっと食べていたものとか「食べたい!」と思って取材して楽しいものを書いています。一度、編集さんと取材で行った湯島の「みじんこ」という店は、みんなホットケーキ推しなんですけど、私は断然フレンチトーストの方が美味しかったんですよ。

友井 そのお店なら僕も行ったことがあります。昔ながらのホットケーキらしいパンケーキですよね。

矢崎 あと、取材とは関係なく行った蒲田の駅ビルに「シビタス」という、パンケーキが有名な喫茶店があって、このあいだ初めて食べたらすごく美味しかった! パンケーキの底がカリカリしているんです。もし『ぶたぶたカフェ』を書く前にこれを食べていたら、きっと「底がカリカリ」は描写していたと思います。

食べ物描写では「興奮ポイント」が大切

友井 矢崎さんは小説の中で食べ物の描写をたくさん書かれていますけど、どんなことを重要視されているのでしょうか。

矢崎 この間の打ち合わせでは「食べた時の気持ちを書いている」って言ったんですが、よく考えてみたらそんなことないんです。食べた時の気持ちは自分の中にあるんですが、書いている時はそれほどその気持ちはなくて、「じゃあその気持ちになるのは何で?」って考えると、例えばパンケーキだったら、バターの香りや、さっき言った「底がカリカリ」とか、興奮ポイントみたいなところですかね。

友井 なぜその感情になるのか、気持ちが湧きたつのか、という部分を書くというとこですね。その人にとって何が一番美味しいと感じて印象深かったかということを、矢崎さんの文章は重点的に描いているような気がします。

矢崎 人に話をするときも、「ここがこうだったんだよ」みたいに強調して話すようなところでしょうか。「こんなに美味しかったんだよ、あなたも食べてみて!」と伝えたら「そんなに言うんだったら食べてみようかな」と思ってもらいたい。人におススメするような感じで書いているのかな。うまく言えないけど、小説的な感情の書き方じゃなくて、その人自身のほとばしる気持ちというか。でも、小説的にはあんまり「美味しい」を連発できないんですけどね。

友井 端的に伝えるには、一番エモい部分ですよね。その方が読者には感情がダイレクトに伝わるし、追体験できるのと思うので、矢崎さんの書かれる作品の魅力の一つかなと思います。

食にどう向き合うかでキャラクターの背景が見える

矢崎 昔から面白い小説を読んでいても、食べ物の描写が変だと、そこばっかり気になるんですよ。すごく文章が上手なのに、明らかに「この人食べ物に興味がないんだろうな」って思うこともあります。

友井 そういうことありますね。書いている人の食べ物に対しての興味って、絶対的に文章に表れるので。その点で矢崎さんは「この人は食べ物が好きなんだな」とひしひしと感じられます。

矢崎 実は小説に食べ物の描写って、本当はそんなに必要ないんですよ。でも、友井さんの「スープ屋しずく」シリーズは、ストーリーと関連があるので、必然的に食べ物の描写がメインになる場合もありますよね。

友井 一応ミステリーのジャンルになるので、なるべく食べ物とトリックはつなげるようにしていますし、この食べ物があるからミステリーが成立する、といったストーリーになるようにしています。「ぶたぶた」シリーズは、各登場人物の心理の流れの中で、適切に食べ物が配置されているので、僕は必要だと思いますよ。

矢崎 食にどういう風に向き合うのかっていうのは、キャラクターの深みというか生活感が出ますよね。食に興味がないという人もいるので、どういう風に食べているのか、食べ物に対してどう思っているのかっていうのを描くと、わりとその人の背景が見えてくるんですよね、どういう風に生活しているのか、とか。

友井 そうですね。例えば味噌汁をつくるにしても、丁寧にかつお節とかで出汁を取るのか、顆粒のものを使うのかでキャラクターが変わってきますし、そのキャラクターの描写をするうえで、料理とどう向き合うのかが読者に伝わりやすいような動きを出しやすいので、なるべく丁寧に描こうとは思っています。

「ぶたぶた」シリーズが長年続いている理由

友井 「ぶたぶた」シリーズは現在31作目まで刊行されていますが、これだけ長く続けられる秘訣を教えてください。

矢崎 一番最初に出した出版社が文芸を止めることになって、出版元が徳間書店に移って、その後光文社に、と「ぶたぶた」は流浪のシリーズなんです。その都度声をかけてくださる編集さんがいるんですが、わりと編集さんのファンが多かった作品だと思うんです。なので、ここまで細々と出させていただけたのではないかと。あとは、ぶたぶたが主人公じゃないっていうのが一番大きいです。

友井 毎回何かに悩んでいる主人公たちがいて、各話ごとにその主人公がぶたぶたと出会って……という形式ですよね。

矢崎 主人公は無限にいるから、毎回違う話になるので書き続けられたというのも理由ではありますね。

会場には、矢崎さん所有のぶたぶたのモデルになった「モン・スイユ」のぬいぐるみ2匹も

友井 僕が読んでいて印象に残るのが、各話ごとで完全な解決をしていない。主人公たちがぶたぶたと出会って意識が変わる、というところで終わっていることが多いので、これだけたくさんお話があっても嘘っぽくならないんだなと思うんです。

矢崎 もう一つ、本シリーズを長く続けられる理由をあげるとすれば、ぶたぶたが「ものすごくいい人」だということなんですよ、でもそれは人間じゃないから続けられるんです。ぶたぶたみたいな性格の人間がいたら、かえって嘘くさくなる。「そんな人いないよ」とかキレイごとになってしまうけど、「ぶたぶたはぬいぐるみである」ということが、その完璧な人格を支えているんです。そんなぶたぶたが物語の核になっているので、小説の中身自体も「ぶたぶたに出会うことで全てが解決する」という話だったら、ここまで続いていなかったと思います。

――後半の質問タイムでは、「美味しいお店はどうやって見つけているのですか?」など、お二人へたくさんの質問が。中でも、「ぶたぶたはスープ屋を開店しないのですか?」という質問が出ると――。

矢崎 「スープ屋しずく」とコラボとかできるならぜひ(笑)。友井さんの作品を読むと「スープが飲みたいな」と思います。

友井 僕も書いていて「『しずく』が本当にあったらいいな」と思いますよ。書いている本人が一番行きたいと思うんですよね。「スープ屋しずく」にぶたぶたがアルバイトに来るとか、どうですか? でもそうなったら慎哉君は仕事を失いますね。慎哉君は「スープ屋しずく」で働くちょっとチャラいヤツなんですが、ぶたぶたが来たら多分することが何もなくなるかなと(笑)。『ぶたぶたのスープ』とかいつか書いてほしいです。

矢崎 そうですね、シチュー屋さんとかもいいかもしれないですね。

質問タイムで「生の鼻ぷにぷに(作中でぶたぶたがよくやる仕草)が見たい!」とリクエストが。実際のぬいぐるみでは鼻に手が届かず、矢崎さんが変わりに「鼻ぷに」をすると、会場からは「かわいい!」という声が

「ぶたぶた」と「スープ屋しずく」夢のコラボ作品を、いつか読むことが出来る日が来るかもしれません!