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Sassyのあかちゃんえほん「にこにこ」 発達心理学を取り入れた米国の人気おもちゃを絵本化!

文:柿本礼子、写真:有村蓮

赤ちゃんの発達と「かわいい」が重なる

——愛らしいイラストやカラフルな色使いが人気のトイブランド、Sassyの絵本が2016年に出版された。タイトルは『にこにこ』(KADOKAWA)。この本は本拠地であるアメリカで出版された絵本の翻訳ではなく、日本発の企画だという。2016年に発売されて以来26刷を重ね、シリーズ累計で68万部という大ヒットを飛ばしている。監修とPRを担当したのは石川美和子さん、絵は絵本を中心とした企画・編集・デザインチーム「LaZOO」だ。

石川美和子(以下、石川):Sassyは1981年創業で、赤ちゃん向けの知育おもちゃを世界45カ国で展開するブランドです。ポップな色使いやデザインで多くの方に知られていますが、このデザインは発達学と児童心理学の専門家を含んだ開発チームで作られている、科学的な知見とデザインが融合したブランドです。日本ではダッドウェイが日本正規総代理店となり、おもちゃを販売したり、またアメリカの企業からライセンスを借り受けて日本国内の企業に販売したりしています。ブランドのライセンス展開を提案するために、ある展示会に出たところ、産休明けでその展示会に来ていた編集さんとの出会いで絵本をつくることとなりました。

本国のSassyからも使用許可が下りたところで、数多くの絵本を出されているLaZOOさんにご興味を持っていただき、イラストをご快諾をいただけたのが、このシリーズにとって大きな宝になりました。

石川さんが現職に就くきっかけとなったSassyのおもちゃ「スマイリー」。裏にミラーが付いている。このキャラクターも平面で忠実に再現されている

LaZOO:Sassyのおもちゃは発達心理学の研究を取り入れて作られていること、その中で使われているルールを伺いながらイラストを起こすところから始めました。例えば形の話ですと、Sassyで使われている丸は“まんまる”であることが大事だったり、顔も“笑顔”で“左右対称”になっていたりするんです。非常に図形的なんですね。おもちゃの場合は立体だから角度によって見え方が違ってくるので、そこまで違和感はないでしょうが、これが二次元になったらどうなんだろう? という不安はありました。

だから最初は、左右対称だと味気ないのではと思って、左右を少しずらしたりもしました。でも、その微妙な差異が見破られたりして(笑)。

石川:私とともに監修チームにいたダッドウェイのデザイナーが非常にSassy愛に溢れていて、小さな箇所も見逃しませんでした(笑)。目も、黒目は白目の中央に置くデザインがほとんどで。おもちゃになった時には、黒目が動く仕掛けになっているものもあるのですが、絵本だと動かすことができません。この絵本での描き方はLaZOOさんの過去の作品にはないアプローチだったとうかがいました!

LaZOO:私は、それまでの絵本は完全にフリーハンドで描いていました。左右対称ではないことが表情を生むと思っていたんです。だから最初は、図形的に描いたこのキャラクターの、左右対称のものと非対称のもの、どちらが可愛いと思われるか、温かみを感じられるかという判断がつきませんでした。フリーハンドで書いたほうがいいのかな、と途中まで悩んでいたのですが、ある時から「よし、割り切って徹底的に図形的に描いてみよう」と、コンピュータで半分作った図形を完全に左右でリフレクト(反転して貼り付ける)するというやり方で作っています。

左右対称や平行などを意識した図形的なイラストなのに親しみや温かみが出るのは、LaZOOさんの作画力あってこそ

石川:ほかに、決まりとしては色(カラーバリエーション)ですね。といっても数百種類のカラーガイドのような図鑑があります。この模様と色の組み合わせも発達心理学に基づいたもので、大きな特徴としては“ハイ・コントラスト”と“白黒”です。

赤ちゃんは白黒の世界からだんだん色が見えてきます。例えば生後3カ月だったら、そろそろ赤が見えてくる。だからその時期に初めて“赤”が見えるというのは「驚き」なんですね。Sassyはその驚きの積み重ねが情緒を作っていく、という考えから作られたおもちゃなのです。ただ特定のキャラクターがいたり、そのデザインの細部まで厳しい規定があるブランドではありませんので、絵本の企画に合わせてオリジナリティを出すことができました。

LaZOO:これも新鮮な学びでした。例えば赤と緑のような、目がチカチカする「ハレーション」が起きそうな校正紙が上がってきたら、私たちはすぐに色を修正してしまいがち。でもそんなハレーションを起こす色合わせが、カラーパターンにたくさんあるんです。これでいいんだ!と目から鱗が落ちる思いでした。

石川:校正の段階で、相当数の赤ちゃんに何パターンもの見本を見てもらいました。知人つながりでお願いしてモニタリングをして、読みづらいところはなかったか、赤ちゃんの反応はどうだったかなどする中で、大丈夫だ、赤ちゃんはちゃんと反応してくれると自信を持って言えるようになってきました。

——2016年9月に発売すると、1カ月も経たないうちにすぐに重版がかかり、12月までハイスピードでまた増版、また増版、というサイクルが続いた。

LaZOO:本当に赤ちゃんの反応が良くて、成長が進むと、自分の持っている(Sassyの)おもちゃと、絵本に出てくるキャラクターが「同じ」ということもわかるようになるんですね。この絵本を通して、自分の固定概念を破れて、その後の私の作風にも大きく影響しています。

子育てをしているお父さんやお母さんも楽しめるように

——『にこにこ』で印象的なページは、末尾の2見開き。Sassyの特徴ともいえる白黒の世界から、最終ページは一気にカラフルな世界に変わる。そこに「いないいないばあ!」という遊びを入れた。

石川:先にお話ししたように、赤ちゃんは白黒の世界から徐々に色が見え始めます。産まれてすぐの赤ちゃんが見るファースト・ブックとしてはやはり、白黒が一番の特徴になるだろうということは、制作陣の中では早い段階から決まっていました。ではどう出していくかについては、本当に沢山相談をしました。

『にこにこ』より

『にこにこ』より

LaZOO:最後のページは、とにかくカラフルにしよう、本に登場したキャラクターも全部だそうということと、「静」から「動」にページ展開をしようということが決まり、このようなページができました。

石川:最後の2見開きは読者ハガキでもすごく反響がありましたね! 初めてのお子さんだと、お父さん・お母さんとも、読み聞かせもどこか恥ずかしい。その時、この最後のページはおもちゃのように使えたのかもしれません。

LaZOO:ストーリーはつけず、オノマトペをつけようというのも「見た目で遊んでもらおう」という思いからです。

石川:おもちゃとの相乗効果もありました。絵本売り場の隣におもちゃを置いてくれた書店さんもありました。またインスタグラムなどSNSでの広がりもありました。絵本とおもちゃをセットで写真をとって、これで遊んでいます、とか。

LaZOO:読者ハガキにもみなさん、びっしりと書いてくれているんです。こんなところが良かったとか、絵本を通して子どもとコミュニケーションを取れました、とか。頑張って子育てしているお母さん、お父さんたちの励みになれたかもしれないというのも、本当に嬉しかったです。

4作目以降はSassyのおもちゃにはない、絵本オリジナルのキャラクターも登場している。手書きのラフスケッチは仕上がりとは違うかわいさが

石川:実はSassyの絵本は、アメリカでは商品化されていました。ビニール製の絵本玩具のようなものが多く、おもちゃ屋さんや、量販店での販売が主だったそうです。その意味でも日本で絵本が作れて、それが受け入れられたことはSassyブランド全体にとっても、とても嬉しいことでした。

LaZOO:この絵本で育ったお兄ちゃんが、生まれたばかりの妹に読んであげているというSNS投稿もありました。自分で「いないいないばあ」と言いながらページをめくっている子もいましたね。

石川:「にこにこ」の良い循環が、この本から生まれてくるといいなと願っています。世界は驚きに満ちていて、それが喜びになるように。それが一緒に本を読んでいる大人にとっても喜びにつながっていたら、とても嬉しいです。