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「プラグマティズムの歩き方」書評 信念の真偽は行動で判断される

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月01日
プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内 上巻 (現代プラグマティズム叢書) 著者:シェリル・ミサック 出版社:勁草書房 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理

ISBN: 9784326199785
発売⽇: 2019/11/29
サイズ: 20cm/358p

プラグマティズムの歩き方 21世紀のためのアメリカ哲学案内(上・下) [著]シェリル・ミサック

 私たちは知識に囲まれ、知識を活かして生活している。たとえば時刻表は正しいと信じて私たちはバスを待つ。デタラメな時刻表なら、所定の時刻に列をなすことはないだろう。
 しかし生活人と違って、哲学者は知識の真なる条件を問う。ふつうの人ならAはBである、といえばすむところを、「AはBである」は真か、そもそも真とは何か、と問うのである。
 行動主義とも実用主義とも訳されるプラグマティズムの特徴は、それがいわば人間主義的な相貌を帯びていることである。知識によって生きる人間は超人的人間ではなく、具体的状況を生きる具体的人間である。つまりプラグマティズムは具体的人間を中核に据えることによって、生活人の知識を捉え、なおかつ、その知識の真なる条件を問題にする。
 この理論によれば真理は行動によって測られる。バスは時々遅れるかもしれない。それでもある時刻にバスを待つのは、私もしくは私たちが時刻表は正しいと信じているからである。信念が変わらず固定化されたとき、その信念は真と見なされる。ジェイムズのように信念を私的な信念と捉える人もいれば、パースのように共有された信念と見る人もいる。いずれの場合でも、信念の真偽はそれが引き起こす行動によって判断されるというのがプラグマティズムである。
 20世紀に入り分析哲学が主流となるにつれて、プラグマティズムは衰微した、という説に著者は異議を唱える。すなわち要は力点の置き方である。生活人の知識に還れば、反分析哲学のプラグマティズムになり、真理概念に拘泥すれば分析哲学的プラグマティズムになる。プラグマティズムは今なお健在、というのが著者の見立てである。
 本書は専門的な本だが、哲学者のエピソードにも触れられ、読みやすい。翻訳も丁寧で、プラグマティズムを理解するには格好の本である。
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 Cheryl Misak トロント大教授。オックスフォード大で博士号。プラグマティズムなどに関する著作多数。