ドラマやアニメのロケ地を旅して歩く行為を聖地巡礼などと言い出したのはいつの頃からだろう。
初めて聞いたときは、ロケ地に行ったところで登場人物が歩いているわけでなし、フィクションの世界が実在するわけでなし、その物語が好きであればあるほどかえって幻滅するだけじゃないか、と思ったのだが、それを言うなら歴史の舞台を旅するのも同じことだと気付いて考えをあらためた。
それどころか自分自身も夏目漱石の『草枕』を読んで熊本の小天(おあま)温泉に行ってみたことを思い出し、なんだ、自分も前からやってるではないかと親近感を覚えたのだった。
「ロケーションジャパン」は、映画やドラマやアニメのロケ地情報を発信する雑誌。最新号の2月号を見ると、若手俳優のインタビューのあとは、全国の話題作のグルメ情報がどかどか載っていて一瞬グルメ雑誌と見まがいそうになるが、最後のほうに制作関係者に向けたロケに使えるスポット情報なんかも載っているから、ロケツーリズム全般を扱っていることがわかる。
つまり映画やドラマ、アニメを見る側だけでなく、作る側にも配慮した誌面づくりがなされているわけだ。
昔から、NHKの大河ドラマや朝の連続テレビ小説の舞台になればその土地は観光客が増えて潤うのが一般的だ。今では地方自治体やローカル鉄道会社などがこぞって映画やドラマ、アニメを誘致し、地域振興に繫(つな)げようとしている。なかには海外のドラマや映画のロケ地となって、インバウンドの集客に成功した例もある。
そうしてみると「ロケーションジャパン」は、ニッチな雑誌のようで、なかなかいいところに目をつけている。“ロケ地から日本を元気に”という謳(うた)い文句もいい。
ただ難をいうなら、読者ターゲットがドラマやアニメの視聴者なのか制作者なのか、はたまた地方自治体なのか、そのへんがわかりにくい。
表紙にイケメン男子が多くフィーチャーされているところを見ると、ドラマ好きの女性をメインターゲットに想定しているように思えるものの、そっちへ向きすぎると本誌のユニークさはうやむやになってしまうだろう。ロケ地探しの悩み解決インタビューや、権利処理の問題を扱うコラムなど、突っ込んだ記事が小さいのがもったいない。でもそういう記事を増やすと売れないのか。
まだまだのびしろのありそうなジャンルだから、ぜひ雑誌の力で日本を元気にしてほしい。=朝日新聞2020年2月5日掲載
編集部一押し!
- ニュース 第171回芥川賞・直木賞、選考委員が語る講評 「真っ二つに分かれ」直木賞受賞を逃した作品とは? 朝日新聞文化部
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 レジェンドOB伝統の一戦。いつか自分もヴォネガットのように、歩んだ道を伝えられたら(中江有里の「開け!野球の扉」 #16) 中江有里
-
- インタビュー すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 きつい話もポジティブに書く「面白いのが一番かっこいい」 清繭子
- コラム 格闘技もプロレスも神事である 夢枕獏 夢枕獏
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 小説家になりたい人・清繭子がエッセイストデビュー。「人生の意味は後付けでしかない」【「夢みるかかとにご飯つぶ」刊行記念特別版】#15 清繭子
- トピック ヨン様からNewJeansまで一気読み! ハヤカワ新書「韓流ブーム」好書好日メルマガ読者3名様にプレゼント 好書好日編集部
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂