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自己決定が自立への道 教育評論家・尾木直樹さん@埼玉・三郷市立新和小学校

文・安里麻理子 写真・首藤幹夫

1秒で「ママ」になっちゃったの

 「今年はママになって10周年よ~」

 今や小学生にも「尾木ママ」の愛称が浸透している教育評論家の尾木直樹さん。その第一声に一同びっくりで、「そんなに前から!?」。

 尾木さんが事前に取ったアンケートには「どうしてママになったの?」という質問が多く、それに答える形で授業は始まった。

 発端は2009年の年末、明石家さんまさんの特別番組に、教育問題を語る専門家として出演したときだった。さんまさんに突然、「あんた、飲み屋のママに似てる。ママ、ママ~」と連呼され、当時、私立大学の教授も務めていた尾木さんは仰天。「やだ、まじめな研究者のイメージが崩れちゃう! 大学もクビになるかも」

 必死に阻止したものの、あたふたする様子がウケて、バラエティー番組から引っ張りだこに。「あのときの1秒でママになっちゃったの」

 ただ、そうして広く顔が知られたことにより、教育や子育てに関する専門的な話も、たくさんの人に聞いてもらえるようになったという。

 「人生ってそんなふうに、いつ、どこで何が起きるかわからない。だから、そのときそのときを精いっぱい生きておくことが大切」

 中学、高校の先生として22年間教壇に立ち、大学教員に転身した後も20年以上、教育現場に情熱を傾けてきた尾木さんの実感だ。精いっぱいやっていたら、思いもよらない展開が待っていた。自分では気がつかなかった一面に光が当てられた。

「しなさい」には「自分で決める」と言おう

 とはいえ、みんなはまだ小学生だ。何を精いっぱいやればいいのか。やっぱり勉強?

 尾木さんのアンケートには、「勉強しろと言われるとやる気をなくす」という悩みが多数寄せられていた。「私も同じという人は?」と促すと、ほぼ全員が手を挙げる。

 「では、後ろの保護者の方で、勉強しなさいと言ったことがない人は? あ~ら、1人もいない」。尾木ママ、よく言ってくれた!と、子どもたちのニヤニヤが止まらない。

 「なぜ、やる気をなくすのか。答えは明確です。自分で決めたことではないから」。

 尾木さんによると、5、6年生といえば思春期に入る年頃。体も心も変化する。「自分でコントロールできなくて、イライラしたり、感情を爆発させたり。それが親子関係や友だち関係にも影響するの」。

 尾木さんが「どんなとき、親に反抗する?」と尋ねると、5年生が「やりたいことがあるとき」。「それが普通。だいたい勉強できる子って、親に言われなくてもやる。自らやる、これを自立といいます」。

 そうはいっても自ら勉強する子なら苦労しません! 保護者席からそんな心の声が聞こえてきそうだ。

 そこで尾木さん、自身の子ども時代のエピソードを披露した。学校から帰ると毎日、お母さんに「直くん、今日はどんな予定なの?」と、尋ねられたという。

 「小学生に予定って聞かれてもねえ。遊びに行く、くらいしかないわよ! でも、それだけじゃまずいと思って、帰ったら勉強するって言っていた」。

 言った以上、やらなくては。そうしないと大人のことも、「言っていることとやっていることが違うじゃないか」と批判できない。「今思えば毎日、自分の考えを問われていたようなもの。その上で、自分で決めさせていたんじゃないかな」。

 ホワイトボードに「自立」「自己決定」と書き、子どもたちに訴えた。「だから、何かしなさいと言われたら、自分で決める、と言うクセをつけるといいのよ」。

スマホ依存、いじめ、どうしたら?

 続いて、「どうしても言っておきたいことがある」と尾木さん。「今年、世界保健機関(WHO)が、スマホなどでのゲーム依存は病気で、程度によっては入院治療も必要だと正式認定しました。知ってた?」

 ゲームだけではない。インターネットやSNSの利用も含め、全国の中高生約93万人がネット依存の疑いあり、という推計を厚生労働省が発表した。SNSを介して小学生が誘拐された事件もあった。

 「そもそも日本は子どものスマホ利用に対する規制がゆる過ぎ! 韓国や中国では政府が、未成年の深夜のオンラインゲームを禁止したくらいなのに」と、警鐘を鳴らす。

 現状に業を煮やし、「スマホルール7か条」を考えた。「スマホの使用は夜○時まで」「使用・充電する場所は、リビング・ダイニングに限る」など7つのルールと共に、親もこれを守る約束を促す。「詳しくは、7つのルール 尾木ママ で検索してみて」。

 この話は強烈な印象を残したようだ。𠮷川晴翔(はると)くん(5年)は、「ゲームはやっていないけれど、依存の話がこわかった。スマホを使う時間を決めたい」。大塚くるみさん(6年)は、「ニュースで誘拐事件を見ました。スマホを持ったら気をつけようと思う」。

 子どもたちが直面している問題について、とどまるところを知らない尾木ママトーク。時折、「テレビでは文化人枠だからギャラ安いの」など、オトナの事情を笑い話にして挟みながら、最後は「いじめ」について。「人が嫌がっていることは今すぐ止めてください」。

 傍観しているだけで感覚はどんどん麻痺していく。そう諭しながら、「友だちにムカムカしないですむ方法があるの」。

 すぐ口を出してくるからムカつく。でも、そういう子は活発な子。

 態度がはっきりしないからムカつく。だけど、そういう子は慎重な子。

 「そんなふうに、誰かを否定したくなったら別の見方をしてほしい。だって、みんな違って当たり前。だからいいのよ」

 時間が迫り、「もっと話したいけれど、本に書いたから図書館で借りて」と、『尾木ママのいのちの授業』(ポプラ社)、『尾木ママの女の子相談室(1) なりたいわたしになるっ!』『尾木ママの女の子相談室(2) スッキリ解決★友だちの悩み』(ポプラポケット文庫)を紹介。見送る子どもたちにもみくちゃにされながら校舎を後にした。

 「今の小学生には大人が想像する以上の情報が入っています。そのため親が言いそうなことは分かっている、言われるとうるさく感じてしまう。それでもダメな子にしたいなら、過干渉な親になればいい」と、尾木さん。

 「子どもを主体に、考える力を育てる、自己決定させる。それが大事じゃないかしら。今日の新和小の子たちだって、すでにみんな主体的でしたよ」