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インターネットが消えた“優しい世界”で 水沢悦子「ヤコとポコ」(第111回)

 今年は世界的名作『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)が誕生して50周年。それを記念して、小学館の各児童誌に発表された「6パターンの第1話」を収録した『ドラえもん0巻』は発売2ヵ月で50万部を突破し、根強い人気を見せつけた。キャラクターやあらすじは今さら説明する必要もないだろう。中高年世代には本作でマンガに出会ったという人も多いと思う。そういえば筆者も、小学2年生のとき初めて親に買ってもらったコミックスが『ドラえもん』の1、2巻だった。

 ドラえもんと同じ「ネコ型ロボット」が活躍する作品に、「エレガンスイブ」(秋田書店)で不定期連載している『ヤコとポコ』(水沢悦子)がある。近未来というよりもパラレルワールドなのだろう。50年前に起きた「通信革命」によってインターネットと携帯電話が廃止された一方、ロボット工学が高度に発達し、多くの動物型ロボットが人間のアシスタントとして働いている世界。「月刊少女ラスカル」(ぽんぽこ出版)に連載を持つ少女マンガ家の桜井ヤコは、ネコ型ロボットアシスタントのポコとふたりで暮らしている。ポコはドラえもんと同じように食事をし、腹部にはポケットもついているが、そこに「ひみつ道具」が入っているわけでもなく、「てきとうモード」に設定されていることもあって小学生程度の能力しか持っていない。

 ある日、ポコが行きつけのゲーセンで「ゆっこペン」をもらってきた。それはかつて「ゆっこさん」というイラストレーターが作った思い出の色のペン。「うらやましかった友達んちの猫色」「一番長生きした金魚色」「好きだった男子の家の屋根色」「使うとすごく怒られるお姉ちゃんのシャンプー色」などの色があり、「思い出の色が自分と同じだったら幸せになれる」と言われたらしい。それ以来、ヤコを幸せにしたいポコはすでに製造が中止された「ゆっこペン」を少しずつ集めていく。
 太い描線と低い頭身の可愛い絵柄。高速道路でさえ最高速度は40キロ。生き物をモチーフにした建物や乗り物ばかりのファンシーな町並みは遊園地のようだ。全編に不思議なノスタルジーが漂い、なんとも懐かしく、温かい気持ちにさせられる。3ヵ月に1話というのんびりした連載ペースも作品世界にふさわしく、力が抜けていながらも、細部までていねいに作られていることがよくわかる。

 今月、1年半ぶりの新刊となる第5巻が発売された。ヤコとポコは3日間世界を周遊する超大型飛行船「こいのぼり」に乗ることに。第2巻にチラッと姿を見せた「こいのぼり」、第3巻から登場する「かみさまモード」の違法ロボットなど、これまでに散りばめた多くの伏線を鮮やかに回収。最終回でもおかしくない感動のクライマックスを描き、多くの読者を号泣させている。老若男女、あらゆる人に読んでほしい。