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「PR思考で情報を自走させる」三浦崇宏さんトークショー 好書好日サロン開催(前編)

文:篠原諄也 写真:松嶋愛

「情報を自走させる」ために

秋吉 今回、三浦さんに大きく2つのテーマでお話していただければと思っています。ひとつは「PR思考」、もうひとつは「言語化」について。最初に「PR思考」のお話をお伺いできればと思います。

三浦 「PR思考」とはどういうことか整理すると、いわゆるマーケティングコミュニケーションにおいて、大きく「広告」と「PR」の2つに分かれるんですね。「広告」は朝日新聞社だったら15段、30段(広告のサイズ)がありますし、テレビCMだったらスポット(番組に関係なく局が放送)、ヤフーだったらバナーとか。つまり元々ある定量化された商品としての枠を買うことを「広告」といいます。枠を買って、そこに情報を載せることです。

 一方「PR」は広義と狭義の意味があるんですけど、広義の意味では学問的には「パブリックリレーションズ」という意味なので、“社会との合意形成”ということなんですね。なので本質的には「PR」は、企業やブランドがあらゆる社会のステークホルダーに対して、特定の情報を発信することで関係構築することなんですよ。ですが日本のマーケティングコミュニケーションにおけるPRは、いわゆるメディアの編集や制作に話をいれてニュースをつくったりすることだとされている。

 例えば、僕の本に関して、広告だったら15段の新聞にドーンと「言語化力」と枠をいれる。「PR」は読書欄の書評のコーナーに「すみません、この『言語化力』って本が凄く今売れてるんで何か書いてもらえませんか?」みたいな、何らか編集や制作のところに忍ばせていくことをいいます。本質的には先ほど言った広義の意味での「PR」が大事なんですけど、日本のマーケティングの世界では「PR」というのはえてして、メディアに対して情報をいれることによって掲載獲得することで、情報露出させていくことだと捉えられることが多いです。

 僕の場合は元々「広告」のいわゆるクリエイターになりたかったんですけれども、最初はなかなかうまくいかず、博報堂の「PR」のほうに配属されて、メディアに対してどうやって情報をとっていくか、いれていくかという技術を凄く学んだことが一個自分の強みになっています。

 だから結果何が起きているかというと、広告をつくる時に「どうやったらメディアで話題にしてもらえるか」「どうやったら勝手に情報が広がっていくか」を考えながら広告をつくることが多いのが僕の強みだったりしますね。それを僕が分かりやすく一言で言っているのが「作品をつくるのではなく、現象を起こすのが仕事である」ということです。この「作品をつくる」というのが、いわゆる新聞広告やテレビCMみたいなコンテンツをつくって納品するだけで終わりになる広告の考え方。それに対して、それはあくまでスタートにすぎなくて、そこから先に世の中でどう広がっていくか、どう話題をつくっていくかという、現象を起こすところまで含めて仕事であると考えているということですね。なので「広告思考」とは「作品思考」であり、「PR思考」とは「現象思考」であると言い換えると分かりやすいかもしれません。

秋吉 僕が「PR思考」を凄く好きなのは、スマホの登場で情報が溢れていて、SNSが浸透している今の時代だからこそ自由にアイデアが活かせるんじゃないかと思っています。このトークイベントの前回ゲストの博報堂の嶋浩一郎さんから聞いた言葉で凄く印象に残ったのは「情報を自走させる」ということでした。これは分かりやすくいうと、どういうことでしょう?

嶋浩一郎さんが登壇したサロンの模様はこちら

三浦 ある広告をつくった時に勝手に皆さんが話したくなることってありますよね。「あの広告見た?」とか「あのプロジェクト凄くない?」みたいに、情報が勝手に広がっていくこと。昔は新聞に載るとかテレビのワイドショーで紹介されることがひとつの自走の状況だったんですけど、今はSNSがあることによって一億人が全員メディアになっている。全員が編集者であり、メディアであり、制作者になっている。その彼らが何か情報を周りに伝えたくなる。その時に勝手に情報が広がっていくような構造をつくれるか。あるいは勝手に広めたくなるようなコンテンツになっているかが、情報が自走しているかどうかということですね。

 つまんない広告は大体見て終わりだったり、見ても覚えてもらえないものが多い。その中で「あ、これ面白いな」と思って「これを誰かに伝えたいな」「こういうものについて僕も考えたい」と思ったということを考えるのが「情報が自走する」ということですね。

 もうちょっというと、情報が自走する企画の分かりやすい考え方で、僕がよく言ってるのが「事件」か「実験」か「意見」になっているかということです。「事件」。いわゆるアクシデントですね。予想もつかない出来事になっていること。何か考えられない想像もつかなかったようなことが起きる。あるいは「実験」。ある出来事に対してその先がどうなるかわからない。今は予定調和のものがあまりに溢れていて綺麗なものができているので、それがこの後どうなるか分からない、どういう風な結末になるのか想像もできない、破綻してるんじゃないかと思われるもの。そして「意見」。今、世の中はあらゆるものが満たされていて平和な社会なので、何かひとつ社会的に強いメッセージがあるもの。

 僕は「衣食足りて礼節を知る」という言い方をよくするんですけど、食べ物はある。コンビニやファミリーレストランに行ったら何でも美味しい。2000円あれば何でも美味しいもの食べられます。あるいは「衣」ではユニクロに行けば2~3000円あればかっこいい服も可愛い服も暖かい服も手に入ります。だからこそ今、ようやく我々人間は産業を通じて、サステナビリティとかダイバーシティとかジェンダーとか、社会課題の解決に取り組める時代になっている。だからこそ「私は今ジェンダーに対してこう思う」「私はもっとサステナブルな社会であるべきだと思う」といった意見を言うことが、凄く多くの人の共感を得ている。「情報を自走させる」ことが大事で、そのために「事件」か「実験」か「意見」、この3つのどれか、あるいは複数が企画の中に含まれていると凄くいいですよ、という話をよくしています。

黒塗り文書を再現して「事件」を起こす

秋吉 GOの皆さんのつくられた作品、いやお仕事についてご紹介していただきます。

三浦 「作品」を「お仕事」と言い換えてくださった秋吉さんが凄く気遣いがあるというか、学習能力が高いので拍手していただいていいですか?(会場、拍手)

 これ凄い大事なことなんですよ。広告クリエイターって本当「作品」って言うんですよ。「いやお前、客の金でつくってんだろ」って話なんで、あくまでお仕事だと僕は思ってるんで。秋吉さん、ありがとうございます。

秋吉 いえ、そこに気づいていただいてありがとうございます。

三浦 僕らの仕事をいくつか紹介すると、例えばこれですね。ケンドリック・ラマーというアメリカのミュージシャンですね。アメリカではものすごく有名なラッパーで、多くの人が知っている方なんですけれども、日本ではあまりまだ知られていなかったんです。その方が来日する時に「本当に凄い大物なのに日本では全く知られていなくてどうにかしないといけない」と相談いただきました。

 その時に我々が考えたのが、彼はピューリッツァー賞(新聞や雑誌などの報道、文学、作曲の功績に対して贈られる米国の賞)をラッパーで初めて獲ってるんですよ。びっくりしますよね。つまりそれくらい社会に対して価値のある、意味のあることを投げかけているラッパーです。その彼が日本に来日する時にどういったものをつくればいいのか。やっぱり彼の社会視点みたいなこと、いわゆる普通のラッパーのように「グラミーたくさん獲ってます」とか「レコードめっちゃ売れてますよ」みたいな話をしてもしょうがないと。

 それよりも例えば、キング牧師がいる。マイケル・ジャクソンがいる。オバマがいる。そういった歴史を変えてきたブラックパワーの象徴になる人物のひとりだと考えたらどうだろう?という考え方で、ケンドリック・ラマーがもし日本に今いたらどんなこと考えたんだろう?と考えた時に、当時、ちょうど森友学園・加計学園の黒塗り文書が凄く話題になっていた時期だったので、それを丸々再現して、黒塗りになっているところを彼のアルバムのタイトル「DAMN.(”クソが”という意味のスラング)」をそのまま載っけたという。

 これは極めてお金がなかったので、国会議事堂前駅と霞ヶ関駅の2箇所にだけ貼ったんですよ。それが凄く政治的なメッセージに見えたり「こんなヤバイものどうするんだ」とか「めちゃくちゃ過激なメッセージだね」とか「これ本当にケンドリック・ラマーこんなことやると思う?」といった反応がありました。「こんなにポリティカルなメッセージを社会に発信するなんてほとんどアートだよね」とか「かっこいいね」「俺もこういう黒塗りとか良くないと思ってた」みたいな、前向きな反応が8割でした。一方「ケンドリック・ラマーこんなことしないんじゃない?」とか「これってある種広告クリエイターのエゴじゃない?」みたいなディスりが2割くらいありました。ほとんどお金かけなかったんですけれども、ものすごく話題になって、ツイッターのトレンドの2位がケンドリック・ラマーで、4位が霞ヶ関になった。霞ヶ関がトレンドになる国って何なんだって話なんですけど(笑)。非常に話題になったプロジェクトのひとつですね。

 これはさっきの「実験」と「意見」と「事件」でいうと「事件」。びっくりするような政治的な主張に見える。禍々しい雰囲気、テロリズムのようなドキドキするような事件の雰囲気がある。あとは「意見」ですね。「今の日本で黒塗りにすることについてどう思う?」と皆に問いかけるような。その2つのニュアンスがこのクリエイティブの中に入っています。

最短距離で急所をつくクリエイティブを

秋吉 三浦さんの著書の中でも触れられていますけれどもこの2つの駅を選んだ理由は?「PR思考」?

三浦 いやいやもう「テロ思考」ですよね。

秋吉 よくこれを出せましたよね。東京メトロの駅に。

三浦 「テロ思考」って結構大事だなと思っていて、僕はいい広告は平和なテロだと思ってるんですよ。要はテロリズムって戦争の対義語なんですね。どういうことかというと、ある弱者が強者に立ち向かうときに何か一個大事なところを突けば、政治体制が一変するということを狙ってるんですよ。つまり兵力や資金があったら戦争するんですよ。国は。政治っていうのは。だけれどもそれができない弱者だからこそ、一発逆転を狙わないといけない。その国の要衝になっている巨大な象徴的なビルだったり、その国の国家元首ひとりを刺しにいくということなんですよ。テロリズムはもちろん良くなくて、そんなことが起きるような社会にしちゃいけないんだけども、僕がよく言っているのは最短距離で急所をつくクリエイティブが必要であると。

 だからお金があるんだったら、ケンドリック・ラマーの広告を日本中に出せばいいんですよ。山手線でも新聞15段でも30段でも出せばいい。ただ本当にお金がなかった。としたときに、彼らのアートを通じて社会的な視点、世の中に対して批判的なことを投げかける視点を、どこに置いたらいいんだと考えたときに、国会議事堂前駅と霞ヶ関駅に貼ることがかなり彼のメッセージを突き刺すものになっているだろうと考えたということですね。国会議事堂前駅と霞ヶ関駅は人通り少ないんですよ。ただそれが報道されたCINRA(シンラ)とハフポストというネットメディアの記事、あとはたまたま通りがかった人がツイッターなどでものすごく拡散していって、情報が自走して話題になったということですね。

※後編は2月29日に公開予定です。