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「未来予測本」ブーム、本でひもとく どう生きていくかを補助線に 原真人・朝日新聞編集委員

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに2025年に開かれる大阪・関西万博(イメージ)=経済産業省提供

 未来予測がテーマの本を最近よく目にする。先の見えない、不安の時代の表れなのだろう。
 予測というなら当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦では困るが、かと言ってそう簡単なものでもなさそうだ。最も信頼できる長期予測は人口動態だが、77億人の世界人口が今世紀末に109億人になるという国連予測にさえもっと早く減少に転じるという異論があるほどだ。

技術進化の影も

 覇権国家にとって中長期予測の精度は安全保障面からも重要である。米国家情報会議は大統領に国際情勢の近未来シナリオを定期的に報告する。それをまとめた『2030年 世界はこう変わる』(米国国家情報会議編、谷町真珠訳、講談社・1100円、2013年)は移民問題の深刻化、大国間の衝突の可能性といった今日的テーマを取り上げていた。7年後のいま読み返してもかなり正確な内容だ。

 的中率が高かった長期予測といえば1901(明治34)年の報知新聞の特集「二十世紀の予言」がある。23項目の予言のうち1世紀を経て携帯国際電話やテレビ電話、ネットショッピングなど半分以上の実現をみた。

 ここからわかるのは、的中が偶然の産物ではないことだ。実は私たち自身が予言を自己成就させてきたのではないか。予言そのものが人々の夢となり、発明や技術開発の目的となってきたように思える。

 英エコノミスト編集部による『2050年の技術』もそんな野心をこめ、30年先の先端技術を大胆かつ具体的に展望した。自動運転タクシーの登場で都市の車両は9割減る、宇宙旅行は当たり前になる、遺伝子操作で健康や身体能力は思いのままに得られる――といった具合に。

 技術進化の影も論じている。軍事転用されるロボット技術は国家以外の勢力の手に渡れば大きな脅威となりかねない。データベースが社会のすみずみに浸透すると、プライバシーが飛行機のビジネスクラス並みのぜいたく品になる。これは新たな格差問題の出現である、と。

労働から解放?

 90年前、経済学者ケインズは大恐慌後の暗い時代に「孫の世代の経済的可能性」と題したエッセーを発表。100年後の先進国の生活水準が4~8倍になると強気の予測をして的中させた。ならばと当代一流の経済学者10人が集まって今から100年後を予測したのが『経済学者、未来を語る』だ。米MIT教授のアセモグルは、我々も孫の世代まで世界はたゆみない経済成長を続けることを期待していい、と楽観的な予測をしている。

 ただ一方では、地球温暖化問題などを解決できない未来を憂える悲観論も掲載されている。

 実はケインズも人々が労働から解放される未来を予測し、そこにむしろ哲学的な悩みが生じないか危惧していた。時間の使い道がなくなり、人生の目的を見失ってしまわないか、と。

 これは歴史学者ハラリが『ホモ・デウス』のなかで示した問題にも通じる。やがて人工知能が人間の仕事のほとんどを代替し、多くの人が「無用者階級」になるという衝撃的な未来。本書はさらに、そのとき人間の生きがいとは何か、という本源的な問いを読者に突きつける。

 数百万読者から「現代の預言者」のごとく信奉されるハラリだが、自身は「本書で概説した筋書きは予言ではなく可能性」と言う。そして気に入らない可能性があるなら、それを実現させない行動を考えよと促す。

 道に迷った時、いま立つ場所を知らないことより、どちらの方向に向かったらいいかわからないことの方が不安なものだ。

 たぶん、人が未来予測に心を砕くのは決定論的な未来を知るためではなかろう。これからどう生きていくのか、せめてそれを考える補助線が欲しいのだ。=朝日新聞2020年3月14日掲載