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木内昇さん短編集「占」インタビュー 人生の節目に迷う女性たちの選択は

木内昇さん=興野優平撮影

 人生に迷ったとき、何に頼りますか? 木内昇さんの短編集『占(うら)』(新潮社)では、人生のあれこれを占いに託そうとする女性たちが描かれる。迷いばかりの人生、どう選べば後悔しないのか。

 かみ合わない男の心は、いつか自分のものになるのか。翻訳家として自立している女性は、欲する答えを求めて多くの占師にすがったあげく、どの占いが正しいのか、占ってもらおうと考えてはっとする(「時追町の卜(うらな)い家」)。人の気持ちに保証はない。でも、絶対を求めてしまう。

 両親から縁談へのプレッシャーをかけられながらも、その気になれない娘は、知人女性の仏壇に飾られた遺影からその祖父へのあこがれを膨らませ、死者の声を降ろすという老婆に出会う(「頓田町の聞奇館」)。町内の家庭を甲乙丙丁でランク付けし、その推移を書き込むうちに、妻は平凡だと信じていた我が家の実情を思いがけず知ることになった(「深山町の双六堂」)。

 作品の舞台は、「職業婦人」という言葉が聞かれるようになった一方、まだまだ家や世間に縛られた、大正から昭和にかけての日本。女性にとって、息苦しさと自由がないまぜになった時代だった。「ネットもない中で、女性たちがほかの人たちは何を幸せだと思っているのか、自分はどれくらい幸せなのかと悩んだときに占いを利用するのではと考えた」と木内さんは話す。

 それは現代にも通じる悩みだろう。出産するとしたら、おおよそこの年齢までに結婚したい。仕事は続けるのかやめるのか。現代の女性もとかく、人生の節目で選択を迫られる。もちろん、男性も選択を迫られるわけだが、私事ながら、結婚に伴って転居、転職した妻を見るにつけ、まだまだ女性に負担がいく社会に私たちは生きていると自戒とともに感じる。

 「悩んだときに、どう生きるかを選択しなければいけないですよね。それを人に委ねるんじゃなくて、最終的には自分で決めた方が良いんだけど、その決断に自信が持てない人は山のようにいると思う。自分にとっての幸せが何か分からなくて、他人の幸せを見て基準にもする」

 一方で、自分を保つことは難しいとも指摘する。「自分の中でこれだというものがあれば迷わずにいられるというけれど、そんなに人は強くない。ゆらぎもあるということを分かっていた方が良い」

 木内さん自身、「芯になる部分は、すごくぐらぐらしていると思う。行き当たりばったりで今まで来た」と笑う。編集者からの転身だが、作家になりたい、と思っていたわけでもなかった。「もともとぶれますよ、みたいな体で生きている方が絶対良い。なんであんなことで悩んでいたんだろうって、何年か前のことでも思ったりしますよね。人生のたづなは、取っていないように見える人が、取っているのかもしれない」

 『占』の主人公たちは最後、自分の足で一歩を踏み出そうとする。「占いで何を言われても、本当かどうかは証明のしようがない。でも結局、それを信じるか信じないかを決めるのは自分の気持ち。じつは自分で行く方向を決めているところもある。不思議だなと思ったし、そこを書きたいと思った」
 悩んで占いに頼っても、最終的に決めるのは自分。その自分さえもゆらぐものだと大きく構えられれば、少し楽に生きられるのかもしれない。(興野優平)=朝日新聞2020年3月18日掲載