日本史研究の中でもコアなファンが多いと言われる古代史。近年の目ざましい研究の進展がもたらした、その精緻(せいち)な「面白さ」を多くの人に伝えたいと創刊された、岩波書店の『シリーズ 古代史をひらく』(吉村武彦・吉川真司・川尻秋生編、全6冊)が好評だ。
各巻はテーマ別の構成。昨年春に「前方後円墳」が初めて配本され、「古代の都」「古代寺院」と続いて、今年3月の「渡来系移住民」が最新刊。学界の中堅どころ以上が中心となって執筆しているが、アジア史研究の最新の動向を反映してか、各冊に1~2人の外国人研究者が加わる。
内容は、マニアックでかつ刺激的だ。たとえば「前方後円墳」をテーマにした巻では、韓国・釜山大の申敬澈(シンギョンチョル)名誉教授が「加耶(かや)の情勢変動と倭」と題し、朝鮮半島と日本列島の古墳を比較するが、論考の後半は日韓の古墳の年代観が両国の研究者間でなぜずれるのかという議論に費やされる。
また「渡来系移住民」を扱った巻では、韓国・慶北大の朴天秀(パクチョンス)教授が「古代の朝鮮半島と日本列島」と題して、両地域の政治勢力がどの時代にどのような資源を求めて地域間交易が行われてきたかを、最新の研究成果に基づき叙述する。いずれも一般向けの内容というより、学術論文のダイジェストといった趣だが、新しい視点を提示している。
また、シリーズを俯瞰(ふかん)すると、古代史の研究者や考古学者のほかに文学・日本語学・美術史・建築史などの専門家の名前が目立つ。これも学際的・複合的研究が進む近年の古代史研究を反映した結果といえる。
残る2冊は「文字とことば」「国風文化」。論じられ続けてきたともいえる、この二つのテーマが最新の研究でどのように料理されるのかが、楽しみだ。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2020年4月1日掲載