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三浦春馬さん「日本製」インタビュー 47都道府県の「メイド・イン・ジャパン」を巡って得たものとは

文:根津香菜子、写真:篠塚ようこ

「日本のもの」をきちんと知りたかった

――本連載が始まったのは三浦さんが20代半ばのころですが、何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?

 この連載のお話があがったのが、僕が24、5歳のころだったと思います。当時から仕事で各都道府県に行く機会はあって、その土地のB級グルメや美味しいものに触れてはいたけど、その背景を何も知らないなと思ったんです。

 そんな頃に、1、2カ月間、海外の語学学校に通っていました。クラスメイトはみんな年齢層が違うんですけど、どの国の出身の人たちも自分の住んでいる国やエリアに対して、すごく熱心に目をキラキラさせながら「自分の国にはこんなに素晴らしいものがあるんだ!」と話すんですよ。僕はそれに対して「日本は自然が豊かで」とか「和食っていうのがあって」くらいしか言えなかったことが恥ずかしかったんです。どんなプロダクトがあって、とか、どんな歴史や人々の思いがあって、ということが思い浮かばなかったんですね。

 これから5年や10年先もこの仕事をしていくとして、もし英語が堪能であったとしても、自分の国である日本の魅力を世界に届けられない、語れないなと痛感したんです。自分が知らなかったら人に話せないし、伝えられないと思ったので、これを機に「日本のもの」をきちんと知りたいなと思ったのがきっかけでした。

――秋田県の日本酒や、千葉県のしょうゆ、鳥取県のらっきょうなど、日本の伝統的な食品や食材を取材されることも多かったようですが、実際に作っている方々に会って話を聞き、時にはご自身で作ってみたり、匂いを嗅いでみたりと、現場を体感してみていかがでしたか?

 どの都道府県も、プロダクトとして素晴らしいのはもちろんのこと、素晴らしい製品には作り手の素晴らしい思いがしっかり付随しているんだなということを感じました。それが、その方の顔や手に表れているんだろうなと思います。文字で見た時に想像する素晴らしさもあると思うんですけど、そのものに触れてみて、その人に会って生で聞いて、見てみないと分からないことってたくさんあるんだなってすごく感じました。実際に取材でうかがった中で、自分が何を掴み、何を感じるのかを、毎回楽しみながら感じさせてもらっていましたね。

30歳を迎える2020年初頭までの約1年間を追ったドキュメンタリー写真集付きの特装版『日本製+Documentary PHOTO BOOK 2019-2020』(撮影:京介、ワニブックス刊)も同時発売

――各都道府県の伝統文化や産業などを取り上げる中で、広島県では原爆を体験した「ヒロシマを語り継ぐ教師の会」の事務局長・梶矢文昭さんと対話されていましたね。被爆国である日本の辛く悲しい過去も、これからの日本が継承していくことの一つとして取り上げられていたのが印象的でした。

 「永遠の0」という映画に出演した時に、戦争体験者の方にお話を聞いたことは何回かあったのですが、被爆経験者の方に実際にお話をうかがうのは初めてだったんです。小説で読んだこと、学校の教育で教えられたことはあったけど、実際にその現場を目の当たりにした方が、どうやって逃げたのか、どんな思いだったのかということを聞いた時は、やはり胸が苦しくなりました。取材をさせていただいた梶矢さんが、日頃どういう活動をしているか、また、その活動の重要性や意味も考えさせられました。歴史に触れる機会はあまりないですけど、生きている人から直接お話を聞けるということは、直に歴史に触れているのと同じことですよね。

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 実は後日、この連載を一緒にやっているスタッフが、梶矢さんに改めてお礼を伝えてくれたところ「今回の東京オリンピックで聖火ランナーに決まった」と教えてくれたそうなんです。「同じ火でも、あの時は原爆の火から逃れて走ったけど、今回は“未来を繋げる”という意味で聖火を持って走れるから、とても嬉しいんだ」とおっしゃっていたと聞き、僕もすごく嬉しかったです。それはやっぱり、この取材で実際に梶矢さんにお話をうかがったという事実と、あの時間の繋がりがなければ、こんな風に血の通った何か、みたいな思いを感じ取れなかった気がします。

 どの都道府県の方々も、お話をうかがえたのはほんの1日だったけど、色々な職人さんやそのご家族の思いの軌跡みたいなものに触れさせていただけたことが、何よりも自分の財産になったなと思っています。

日本文化の強みは「発酵の精神」

――47の「メイド・イン・ジャパン」と出会ってきて、三浦さんが今「自国・日本」に対して芽生えた思いはありますか?

 日本は他の大陸と比べてしまうと、もしかしたら歴史が浅いかもしれないですが、大陸から伝わった製品や作物、そういったものを自分たちなりに工夫をして加工をして、そしてまた大陸に戻すことも本当に素晴らしいことだなと思っています。

 僕自身は、日本に根付く技術として「発酵」というものがすごく大きく取り上げられるんじゃないかと思っているんです。日本人は古くから目に見えない菌を使ってたくさんの発酵食品をつくってきましたが、千葉県でしょうゆ工場を取材した際に、発酵する過程で、乳酸菌や酵母菌、麹菌、一つでも欠けるとうまく出来ないということを教えていただきました。そして、いくつもの工程を経て手塩にかけたものが、ずっと継承されているんですよね。

 この連載を通して改めて47都道府県を見るに、その土地で試行錯誤を繰り返して、自分たちの技術として培ってきたものというのは、発酵と同じようなことが言えるんじゃないかと思っています。日本における素晴らしい技術や、繊細な思いやりは、その製品がより洗練されるための栄養素になっていて、「日本の伝統工芸や文化ってどういう強みがありますか?」と聞かれた時に、声を大きくして「発酵の精神」というものがあると言えるし、そのことに気づかせてもらったと思っています。

三浦春馬『日本製+Documentary PHOTO BOOK 2019-2020』(撮影:京介、ワニブックス刊)より

――発酵することで栄養価や保存性が高まったりと、いいことずくめの発酵食品って素晴らしいですよね!

 あはは(笑)。そう、素晴らしいです。発酵は悪さしないですからね! 腐敗ではないですから。熟成した菌が体にいい作用を及ぼすんです。

――「好書好日」はブックサイトなのですが、今、三浦さんが「本」に関わることで、気になることや知りたいことはありますか? 例えば、作家さんが物語を考えている裏側を知りたい、とか。

 確かに、名だたる作家さんたちが、どうしてあんなに早いスパンでストーリーを作っていけるのかは知りたいですよね。実体験とか、何かにインスピレーションをもらっているんだろうなということは、ちょっとは想像できるんですけど。でも、果たしてあんなに緻密にストーリーを紡げるのって、なにか秘訣があるのかなって。僕の知り合いに作家さんがいないので、そういうのを聞いてみたいです。

――最後に、三浦さんの読書ライフについて教えてください。

 読書は、ハマる期間があったら「クッ」とハマります。昨年の秋ごろに、ある歴史的人物を演じる機会があったのですが、その方が学んだであろう『論語』を読んだんです。でも、初めにそちらを読むのは中々難しいなと思ったので、まずは渋沢栄一さんの『論語と算盤(そろばん)』を読みました。役作りにおけるヒントが色々と散りばめられていた気がして、すごく参考にさせてもらいました。そこから、何かものを考える時は『論語と算盤』の「論語的考え方」を持ち合わせられたらいいなと思えるようになり、とても影響を受けましたね。素晴らしい本です。「なんか調子悪いな」っていう時に読んでもいいんだろうなと思います。

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「好書好日」掲載記事から

>鈴木亮平さん「行った気になる世界遺産」インタビュー

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