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「古典×現代2020」に出展、写真家・川内倫子さんが語る見どころ 味わうタイムスリップ感

文:渡辺鮎美 写真:山田秀隆

――参加する8人の現代作家のうち、川内さんのパートは「花鳥画×川内倫子」と題した展示です。伊藤若冲をはじめ、江戸時代の絵師たちが描いた花鳥画と、川内さんの写真作品が対面するように並んでいましたね。

 特に若冲は好きで、個展にも足を運ぶほどです。今はもういない作家とコラボレーションが出来るなんて、面白い試みですし、うれしさもありました。

「花鳥画×川内倫子」の展示空間に立つ川内倫子さん

――古典側の作品に対して、川内さんの作品はどのようなコンセプトで選ばれたのでしょうか。

 主に二つのシリーズが軸になっています。一つが2004年に発表した「AILA」。動物や植物を主な被写体にしていたこともあり、花鳥画の世界観に近いのではと選びました。もう一つは近年のシリーズで、ムクドリの大群を撮影した写真を軸に編んだ「Halo」です。それぞれのシリーズに10年ほど制作時期の隔たりがあり、自分の写真家としての幅を出せるのでは、という思いもありました。

 過去に生きた作家の視線と、現代に生きる作家の視線が交ざり合う展示になったのではないでしょうか。みなさんなりの共通点や類似性を見つけていただければと思います。

上:川内倫子《無題》 シリーズ〈AILA〉より 2004年 作家蔵 © Rinko Kawauchi、下:伊藤若冲《紫陽花白鶏図》 江戸時代・18 世紀 個人蔵

――展示してみて、気がついたことや新たな発見などはありましたか。

 「AILA」は久しぶりにしっかりと展示したので、「いまならこうは撮らないな」とか「この色合いではプリントしないな」といった気づきがあり、昔の日記を読み返した時に感じる、ちょっと恥ずかしいような感覚がありました。でも、概してあまり変わっていないんですけどね。

――古典作品に対してはどうですか。

 海外で展覧会を開くと、時々「独特の色のパレットを持っていますね」と言われることがあります。自分では特別に意識したことがなかったのですが、今回同じ空間に展示をしてみて、もしかしたら日本画からの色合いや、風土の色なのかもしれない、と思いました。

 日本画の色彩は時間とともに変化していきます。なので、いま私たちが見ている絵は、描かれた当時のままの色ではない。でも、私は描かれてから150年以上経った日本画の、あの少し淡いグラデーションが好きなんです。時間の経過でしか出せない色があることを改めて感じています。

 最近、20年ほど前に撮影した自分の写真を、プリントし直す機会がありました。ですが、すでにネガの劣化が始まっていて、撮影当時の色のまま出すことは難しくなっていました。絵と写真で原理は異なりますが、自分の写真が100年後にどうなっているのかな、といったことも考えました。

「花鳥画×川内倫子」の展示風景

――古典作品と同じ空間に展示するのは初めてとのこと。普段と異なる苦労はありましたか。

 展示の中では照明、ライティングが一番大変でした。今回「AILA」は明るい部屋、「Halo」は暗い部屋で展示し、明暗の対比をもたせようと考えました。うっかりしていたのですが、日本美術は作品保護のために照度を下げなくてはならず、あまり明るくできないんです。理想を言えば「AILA」はもっと光がたくさんある中で見て欲しい作品ではあるのですが。でも、普段と異なる見え方になるというのは、この展覧会ならではの面白さかもしれません。

――他の展示はいかがでしたか。

 私にとっては現代作家のみなさんもあこがれの人たちなので、ご一緒できて光栄です。展示は部屋を移るたびに違う世界に連れて行ってもらえるような、タイムワープしながら冒険しているような感じでしょうか。それでいて時間を感じさせないところもあり、見終わった時、どこに行ってきたのだろう、と不思議な感覚を持ちました。

「円空×棚田康司」の展示風景

――どのようなところが見どころでしょう。

 彫刻家・棚田康司さんの作品と円空の木彫の仏像が不思議と親しんでいたり、鴻池朋子さんの神秘的な世界観にいにしえの刀剣の怪しさが際立っていたり。尾形乾山と皆川明さんの「ミナ ペルホネン」の取り合わせは、乾山の陶器も皆川さんが作ったのかな、と思うほど見事にマッチしています。素材やモチーフが共通しているだけでなく、日本に古くからある自然への祈りが、全体に流れているように感じました。

 展示の大トリが「蕭白(しょうはく)×横尾忠則」。出口前に「最初の晩餐(ばんさん)」と題された横尾さんの作品が展示されているのも、時空を超えた本展を表しているようです。

「刀剣×鴻池朋子」の展示風景

――川内さんの近年の活動について。2018年には自身のことばを添え、自ら編集した写真絵本「はじまりのひ」、19年には撮り下ろし写真集「When I was seven.」と、出版活動も重ねていらっしゃいますね。

 編集は、撮影とは全く異なる作業で、「編んでいく」という言葉がまさにぴったりです。一枚の写真の隣にどの写真を配置するかで全然違うものになるので、構成にはとても気を使います。面白い作業なのですが、なかなか進まないこともあります。そういう時は、まだ自分なりの答えが出ていないんですね。撮影に出掛け、帰ってきてはまた作業をする。それを行ったり来たりするうちに、自分の中に明確な答えが出てきます。近年は割と、そんな時間を繰り返しています。

「花鳥画×川内倫子」の展示空間で、自身の作品の前に立つ川内さん