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感染症扱う小説や歴史書に注目 カミュ「ペスト」15万部増刷

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、カミュ『ペスト』が異例の売り上げで話題になった。小説以外にも、過去の感染症の研究や歴史を扱った本もじわじわ売れている。全容がまだ見えないウイルスと向き合う手がかりを、本に求める読者が増えているようだ。

 新潮社によると、『ペスト』は2月以降で15万4千部を増刷し、累計発行部数は104万部になった。ペストにより封鎖された街で、伝染病の恐ろしさや人間性を脅かす不条理と闘う人々を描く。フランスやイタリア、英国でもベストセラーになっているという。

 日本の小説で、新型コロナによる混乱を「予言している」と注目が集まったのは、高嶋哲夫『首都感染』(講談社文庫)。中国で強毒性の新型インフルエンザが発生し、東京が封鎖される。2月以降、計6万4千部増刷した。講談社の担当者は「パンデミックが発生した場合に、何が起こるのか、どのように対処したら良いのかを、読んだ人が冷静に判断できる内容」という。ほかに小松左京『復活の日』(角川文庫)、吉村昭『破船』(新潮文庫)なども売れている。

 人文書では、1983年刊行の村上陽一郎『ペスト大流行』(岩波新書)が、品切れ状態から約1万部増刷した。『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』(東洋文庫)は、100年前の内務省衛生局による報告書に、解説を付けた一冊。解説を書いている仙台医療センターのウイルス疾患研究室長・西村秀一が、古書として出回っていたこの本を入手、「現代に復活させようという強い思いが生まれた」と記す。

 2008年に刊行、品切れ状態だったが、3月末に、ウェブで無料公開(4月30日まで)すると大きな反響があり、重版になった。国内だけで38万人以上の死者を出したとされるスペイン風邪でも、「人の密集を避ける」といった基本は変わっていないことがわかる。西村は「あのころからもう一世紀もたとうとしている今、われわれはいったいどれだけ進歩したのだろうか」と問いかけている。

 より長い時間軸を扱った本では、カナダ生まれの歴史学者ウィリアム・H・マクニールによる『疫病と世界史』(中公文庫)が3月末に1万5千部を重版した。世界各地で感染症対策に取り組んできた山本太郎の『感染症と文明』(岩波新書)は、11年の刊行時は初版にとどまっていたが、増刷を繰り返した。担当編集者は、「『ウイルスとの戦い』という言説が多いが、文明の中で必然的に出てくるもので共存せざるを得ないものだとしている点に独自性があるのではないか」と話す。(滝沢文那)=朝日新聞2020年4月15日掲載