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はんざき朝未「無能の鷹」 お仕事マンガにあるまじきヒロイン

 「能ある鷹(タカ)は爪を隠す」というけれど、本作のヒロイン・鷹野はまるで逆。常に自信満々の“できる人オーラ”を放ちながら、小学生より仕事ができない。あまりの無能ぶりに同僚らは言葉を失い、指導係の先輩も「ホチキス留めはうまいな…」とほめるのが精一杯。しかし、その堂々たる態度から、彼女が話すと内容のない話でもつい聞き入ってしまうから恐ろしい。

 自分の職場にこんな人がいたら迷惑だが、見ている分には珍獣みたいで面白い。何とか彼女に仕事を覚えさせようとする指導係の苦闘ぶりには同情しつつも笑ってしまう。

 一方、鷹野と同期入社の男・鶸田(ひわだ)は、メンタルが弱く頼りなげに見える自分の弱点を彼女のオーラで補うべく、コンビで営業に回ることを思いつく。彼女のトンチキ発言を相手がいいほうに誤解して結果オーライにつながる展開には妙な痛快感がある。

 モンスター級の無能なうえに努力もしなければ成長もしないというキャラは、お仕事マンガにあるまじき存在。しかし、作中の人々が彼女の言動から何かを(勝手に)学んでいるように、一種のトリックスターとして仕事における大事なことを教えてくれている気がしなくもない。=朝日新聞2020年5月2日掲載