1. HOME
  2. 書評
  3. 「時代劇入門」書評 チャンバラ目線でガンダム考察

「時代劇入門」書評 チャンバラ目線でガンダム考察

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2020年05月09日
時代劇入門 (角川新書) 著者:春日太一 出版社:KADOKAWA ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784040822631
発売⽇: 2020/03/07
サイズ: 18cm/367p

時代劇入門 [著]春日太一

 著者は「時代劇研究家」として、人気が長期低迷する時代劇を盛り上げるため、活動を続けてきた。著作としては、『天才 勝新太郎』『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』『鬼才 五社英雄の生涯』など、綿密な取材に基づき時代劇の作り手たちのドラマを活き活きと描き出し、「時代劇は古くさくワンパターンで創意工夫がない」という固定観念を打ち破ったものが多い。
 しかし、これらの著作は、そもそも勝新を知らないといった若い人から見れば、まだまだハードルが高いだろう。ノンフィクションとして優れているがゆえに、楽しく読んで満足してしまい、時代劇鑑賞に進まない人もいるかもしれない。時代劇に興味を持ったとしても、膨大な作品群の中でまず何を観たら良いか分からないからだ。
 そこで本書は、時代劇に全く馴染みのない人、食わず嫌いの人に対して、時代劇の基礎の基礎を分かりやすく説明する。「とりあえず知っておきたい時代劇ヒーロー30」や「とりあえず知っておきたいスター30」などのコーナーは、ありそうでなかった解説ではないだろうか。「『忠臣蔵』超入門」も良くできている。
 身分を隠した権力者が悪人を成敗する展開を毎回繰り返す「水戸黄門」が時代劇史において実は亜流の存在である、といった著者のこれまでの主張もコンパクトにまとまっており、ネット上で見られる安易なまとめとは一線を画す深みがある。NHK大河ドラマは必ずしも歴史ドラマの王道ではなく、従来は悪役とされてきた人物に光を当てる作品が多いという指摘には蒙(もう)が啓(ひら)かれる思いだった。
 著者のオリジナリティーが最も明確に出ているのは、殺陣の観点から「機動戦士ガンダム」を考察したくだりだろう。ガンダムの生みの親である富野由悠季(よしゆき)氏にチャンバラ演出の極意を尋ねる巻末のインタビューを読むためだけでも、買う価値がある。
    ◇
かすが・たいち 1977年生まれ。映画史・時代劇研究家。『時代劇は死なず! 完全版』『すべての道は役者に通ず』