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佐藤直樹さん「加害者家族バッシング」インタビュー 同調圧力が生む自粛警察

佐藤直樹さん

 「社会」とはバラバラの「個人」の集合体で、法のルールによって動く。ところが日本にあるのは社会ではなく「世間」で、その集団の力学こそ物を言い、絶大な力を持つ。

 著者は本書でそう説き、「くり返すが、『世間』においては個人が存在しない」と書いている。刑事法学の専門家で、1999年に歴史学者の阿部謹也氏(故人)らと「日本世間学会」を創設、大学でも学問としての「世間学」を講じてきた。現在は評論家として様々発言している。

 犯罪が起きると加害者の家族までがなぜ目の敵にされるのか、変えるにはどうすべきかを論じた本だが、それにはまず世間とは何かを考えることが不可欠として紙幅を割いた。加害者家族への非難はもとより、新型コロナウイルス対策を巡って現れた「自粛警察」にしても、世間と深く結びついている現象だと語る。

 「世間にはメリットとデメリットの両面ありますが、同調圧力と相互監視がグロテスクに表出した。人に迷惑をかけるなという世間の共同感情を害してはならないのだ、と」

 ひと頃はやったように「空気を読め」というわけだが、これはKYと称される前から強固な世間のルールであったし、今もある。新型ウイルス対策でも「要請」と「自粛」が連呼されてきた。「この国ではそれだけで十分なんですよね。言うことを聞かない人には同調圧力が働く」

 「世間の国」には、国内の安全が他国より保たれているといった利点もある。「武士階級は別としても、江戸時代までの世間は『やさしい世間』で相互扶助の面も大きかった。必要なのは、世間のルールを緩めていき、明治以来の『きびしい世間』を変えていくことです」

 家父長制、死刑制度、天皇制と、世間学の射程は広い。日本語という言語の面からも追究したいと考えている。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2020年5月31日掲載