「りんご だんだん」
最初は、ぴかぴかでつやつやの赤いリンゴの写真。「りんご つるつる」という言葉がついています。かぶりついたら、おいしそうなリンゴです。そのリンゴが、少しずつ少しずつ変わっていきます。しわしわになり、ぱんぱんになり、しなしなになり、ぐんにゃりしたかと思うと、くしゃくしゃしたり、ねばねばしたり、だんだんに無残とも言える姿に。そのうちに、あら、虫もわいてくる。
写真家が1年近くの間リンゴを粘り強く観察して記録した絵本。言葉はごく簡潔で、詳しい説明はないのですが、生きているものは、時間とともに否応(いやおう)なく変化していくこと、そして、それを糧にしてまた次の命が育っていくことなどが、リアルな写真から伝わってきます。(小川忠博写真・文、あすなろ書房、税抜き1300円、幼児から)【翻訳家 さくまゆみこさん】
「世界幻妖図鑑 ドラゴンから妖怪<YOKAI>まで」
アマビエがにわかに脚光を浴びる昨今、世界各地の民話や伝説に潜む幻の生き物たちの大型図鑑が、オランダから届いた。ギリシャ神話のメデューサや北欧のトロールといった馴染みのものから、北極圏のマハハ(くすぐる死神)や南米のピピントゥ(作りかけの生き物)まで、78の幻妖の姿や性格に想像力を刺激される。天災や疫病で、見えない力に頼るしかなかった祖先たちは、想像上の生き物と共存していた。こまやかな線で埋められた空間に妖怪たちが蠢(うごめ)く、百鬼夜行の大画面が圧巻。存在感に震える。(F・ズウィヒトマン文、L・フォルベーダ絵、荒俣宏監修、フレーベル館、税抜き2980円、小学校高学年から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「王の祭り」
革職人の息子ウィルは父親と女王陛下に手袋を届けに行くのだが、女王を暗殺しようとする者たちに巻き込まれ、時空の歪(ゆが)みに投げ出されてしまう。
日本は織田信長が天下統一を目指し、イングランドではエリザベス女王が長きにわたり国を治めた16世紀。2人の偉人と少年少女が時代の波に翻弄される歴史ファンタジー。出会うことのない4人が関わり合い、それぞれの立場で自分の道を見つけていく。少年少女が誰であったのか。すべてがつながるとさらに楽しい。(小川英子著、ゴブリン書房、税抜き1500円、小学校高学年から)【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】=朝日新聞2020年5月30日掲載