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阿部直美さん「おべんとうの時間がきらいだった」インタビュー 家族みつめる13年の「旅」

阿部直美さん

 有名人やグルメではない普通の人のお弁当と食べる人の日常を紹介する全日空機内誌の連載「おべんとうの時間」。その文を書いている。写真は夫の了(さとる)さん。13年続き、単行本4冊になった連載を夫婦と一人娘の「家族巡業」で作りあげた歴史がつづられる。まるで朝ドラのようだ。

 企画の発案は了さんだった。今ではNHKの「サラメシ」に出演してちょっと知られた存在だが、出版社に売り込みに行っても次々に断られた。「おかずの詰め方、ご飯の炊き方、お弁当箱……お弁当はどれをとっても同じものはない。私たちのやってることは面白いよねと褒め合って、3人一緒だからできたこと」

 気になる土地や職場があれば電話で取材交渉し、子連れで全国に出かけた。まだ乳飲み子だった娘が取材中にぐずりだし、おっぱいをふくませながらインタビューを続けたエピソードからは気迫が伝わる。

 そういう苦労も重ねて今は、お弁当ブームだ。キャラ弁やBENTOが海外でも人気になる一方で、居心地の悪さも感じるようになった。

 「弁当の中身の豪華さや見栄え、手作りばかりが重視され、弁当=愛情とひとくくりにされることに、えっ本当?と思った」。そのざらっとした感覚を表現しようと、自分自身の「おべんとうの時間」、つまりお弁当の記憶の向こうにみえる自分の家族の物語をつづった文章が、この本のもう一つの大きな柱だ。

 家父長として家族を支配する父と不機嫌な母。息苦しさから逃げるように米国留学した自分。お弁当から苦い思い出や遠い悲しみが顔をのぞかせることもあるのだ。

 高校3年生になった娘はお弁当が一番楽しいと言う。毎朝のお弁当作りで大切にしていること、それは、ご機嫌な気持ちで作ることだという。長い思いが詰まった言葉だ。(文・久田貴志子 写真・著者提供)=朝日新聞2020年7月18日掲載