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キューライスさんの絵本「ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!」 斬新過ぎるダイエット法、落語がヒントに

文:日下淳子、写真:黒澤義教(MOE2019年5月号)

空気でできた食べ物を食べる!?

――人気の「ドン・ウッサ」シリーズ(白泉社)は、人のいい大親分ドン・ウッサが、かわいい子分に翻弄される姿に思わず笑ってしまう絵本だ。昨年発売された1作目『ドン・ウッサ そらをとぶ』では、うさぎの子分たちが大真面目に、いかにも失敗しそうな空飛び作戦を繰り広げてドキドキ、ワクワク。7月3日に発売された待望の第2弾『ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!』では、親分がダイエットに挑戦するのだが……。著者のキューライスさんに、本作について尋ねた。

 2作目を描き始めたときは、ぼくも35歳になっておなかの肉が気になってきたところで、ちょうどダイエットを始めたときでした。ウォーキングや筋トレをし始めて、ドン・ウッサもいろんなダイエットに挑戦したらおもしろいんじゃないかな、と思ったんです。現実は地道な減量の積み重ねですが、いかに誇張して、ばかばかしく、おかしく、大変な目に遭う方法はないかなと想像するのは楽しかったですね。

『ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!』(白泉社)より

 特に「空気でできた食べ物を食べる」というダイエット法は気に入っていて、これはぼくが好きな落語からヒントをもらったんですよ。「だくだく」という演目があって、貧乏長屋に引っ越してきた男が、家具は買えないけど、壁が殺風景でさみしいから、絵師にタンスや金庫を描いてもらうという話なんです。そこに夜、泥棒が入ったけど、絵だから盗めない。それならこっちもって「金庫から金を出して盗んだつもり」と演じる。そのうち男も起き出して「槍で泥棒を突いたつもり」、泥棒も「血がだくだく出たつもり」と〇〇のつもりを繰り広げる。そういう発想がおもしろいなと思って、絵本でも「空気でできた材料を料理するつもり」「食べたつもり」という展開を描いてみました。

『ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!』(白泉社)より

――子分のうさぎは斬新なダイエット作戦を考えるが、いつもちょっとずれていて、ドン・ウッサは大変な目に遭う。骨が落ちている部屋に住むライオンに、親分を託すところなどはなかなか毒があるが、この3羽の子分は、著者の中でどんなキャラクターとして思い描いているのだろうか。

 詳細な性格設定はないんですが、3羽の子分のうちの1羽だけ、ちょっとぼんやりしているってのはありますね。2作目では、ワンテンポ遅れているのがわかる場面もあります。キャラクターができ上がると、彼らが勝手に動いてくれるんですよ。子分たちの裏の顔などは特に考えていませんが、全体にブラックジョークは入ってるかもしれません。大人も笑えるようにしたいと思って、作っているところはあります。たとえば、子分が親分をライオンに託すときに「たべちゃダメですよ?」と言ってるのに、ライオンはずっと半笑いで返事をしない。このあたりは、子どもより大人の方がニュアンスを理解してくれるのかもしれません。

『ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!』(白泉社)より

大人が見てもおもしろい絵本を作りたい

――『ネコノヒー』や『スキウサギ』などの漫画でも、多くのファンを魅了しているキューライスさん。絵本を描くようになったきっかけはあるのだろうか。

 もともと絵本がやりたかったんですよ。高校から短編アニメーションの勉強をしていましたが、大学に入ったときはまだ漫画すら描いたことがなかったんです。大学2年のときに絵本の授業があってから、絵本を描くようになりました。その後に、漫画を描くようになって、それを本として出していただく機会があって、それから絵本も描かせてもらうようになったんですよね。だからむしろ、漫画より先に絵本がやりたかったことではありました。

 絵本は長新太さんが大好きで、長さんのような大人が見てもおもしろいものを作りたいと思っていました。大学のときに作ったのは、ソースでできた海にアジフライが泳いでいて、カツでできた島が出てきて、カツでできた人間は、夕方になると油の煮えたぎったお風呂に入ります……といったようなストーリーを描いてました(笑)。

 お話を作るようになったのは、小さい頃から「ラボ・パーティ」に入っていたことが影響している気がします。「ラボ・パーティ」って、物語をテーマにして、英語と日本語をミックスしながら劇を演じる教室なんです。小道具なしの身体表現で演じるもので、そこで『三びきのやぎのがらがらどん』とか、『西遊記』とか『ドン・キホーテ』などの絵本に触れる機会がいっぱいあったんですよね。ここはキャンプもあって、高校生まで参加していました。中高生になると、小さい子たちを引率する役割もあったので、宝探しゲームをして盛り上げたり、低年齢の子とはよく触れ合ってました。人を楽しませたいと思う原点は、こういうところにあるかもしれませんね。

 「ドン・ウッサ」のシリーズは、嫌なことがあって落ち込んだ日でも、わっと笑えるものを描きたいと思っていました。読み聞かせをしたときに、子どもたちに「このダイエット法成功するの?」と思わせて、ためてためて、「やっぱりだめだった!」とみんなで大爆笑してくれたらいいなと思います。いまは独身でまわりに子どもがいないので、絵本を読み聞かせることはないんですが、ツイッターなどで小さい子がぼくの絵本を読んで喜んでる様子などを見ると、本当に嬉しいですね。大人も子どもも一緒になって笑ってほしいです。