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『「山奥ニート」やってます。』書評 自由な共同生活 楽しさが大事

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月08日
「山奥ニート」やってます。 著者:石井 あらた 出版社:光文社 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784334951658
発売⽇: 2020/05/21
サイズ: 19cm/317p

「山奥ニート」やってます。 [著]石井あらた

 タイトルを見て、反射的に「ニート」って言うな、と思ってしまったのだが、読むうちにこれは全然ありなのではないか、という気持ちになっていった。何より、楽しそうだ。
 和歌山の山奥の元廃校の建物で、15人ほどで共同生活をする彼らは、好きな時に起きて寝て、ボードゲームをしたり、映画を観たり、バーベキューをしたり、川辺で本を読んだりする日々を送っている。生活費は一人月1万8千円で、食事は思い立った誰かが作る。
 近隣はいわゆる限界集落だが、梅の実の収穫やキャンプ場のアルバイト、直売所の売り子など臨時の仕事はそれなりにある。罠にかかった鹿もさばけば、ほぼ放置している畑から野菜もとれる。山羊(ヤギ)を飼いたい、蜜蠟(みつろう)のハンドクリームや自家製ラー油を作って売りたい、と、計画もいろいろ。
 インターネットはつながっているので、ブログや動画やSNSを通じた社会との交流もある。何だか、コロナ禍で自宅にこもりがちでオンラインによる仕事がほとんどになっている私自身と大して変わらない。というか、ごみごみした東京にいて部屋から見える空も小さい私よりも、森や川や山に囲まれている彼らのほうがよほど豊かで健全な生活をしているとも思える。
 彼らはそれぞれの事情や考えにより、「普通に」働くことをやめてここに集まってきた人たちだ。その過程では、様々な「生きづらさ」や孤独があった。しかしここでは、責めたてられたり咎(とが)められたりすることなく、適度な距離感をとった関係の中で、自由に生きていることができる。
 ここが合わず去っていった人、住民の中でのちょっとしたいざこざなども率直に書かれている。一度去っても、いつでもここに帰れることを支えに都会で働いている人もいる。
 このモデルがもっと増殖すればよいのにと思う。GDPには寄与しないだろう。でも、何より楽しそうなのだ、それが大事だ。
    ◇
 いしい・あらた 1988年生まれ。ひきこもりを経て、2014年から和歌山県の限界集落で男女15人ほどで共同生活。