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藤巻亮太の旅是好日 「粉雪」と古典落語、まさかのコラボレーション

文・写真:藤巻亮太

 お笑いが大好きだ。歳を重ねるたびにそれはエスカレートしている。たとえばサンドウィッチマンのDVDは全部観ているし、伊達みきおさんと富澤たけしさん、お二人のコントはその一部を聴いただけでも、何の演目がわかるくらいだ(好きすぎて、富澤さんと同じブランドの同じ革ジャンを購入した。色も同じ、だけどサイズは違う)。ただ、未だにライブだけは観に行けておらず、それが残念でならない。

落語の魅力に吸い寄せられて

 同じくらいに、実のところ落語を聴くのが大好きだ。30代から寄席に直接見に行くようになった。音楽ライブと比べればさして派手な演出も装飾も照明もない舞台に、落語家さんがたった一人で高座にのぼり、時に一時間にもわたる演目を休まずにやりきる。最初に「枕」と呼ばれる挨拶や世間話などを面白く聴かせて客席の温度感を高め、そこから自然な流れで演目に入る。汗をじんわりうかべながらも一人で何役もこなしていくうちに、観る側はぐんぐんとその世界に引き込まれていくのだ。

 不思議なことに寄席にいると落語家さんが話す情景が脳裡に自然と浮かんでくるし、その演者さんの力量なのだろうが、人間が持つ想像力を最大限に引き出してくれる。本当にありがたいご縁だと思っているが、これまでに立川志の輔師匠や春風亭一之輔師匠とは直接お会いさせてもらっている。

 私としてはお二方の落語にかける情熱とその力量がずば抜けていると思うし、視聴させてもらうたびにより一層ファンになっていく。客席から沸き起こる爆笑、喝采の渦は素直にすごいなと思うし、私などはなにを勘違いしたか、もう少し自分のライブに(なお私、藤巻は歌手である)笑いをわきおこしたいなどと思ってスタッフさんと打ち合わせをしていると、時々「藤巻さん、念のため言いますが、これお笑いライブではなくて音楽ライブですからお願いしますね!」と釘を刺さされたりもする。まあ、何が申し上げたいかといえば、このくらいお笑いや落語が好きなのだということだ。

落語と音楽、異色のハーモニー

 さて、そんな私に一つとてもありがたい企画が持ち上がった。来る10月4日(日)14時から東京の人見記念講堂で「春風亭一之輔・藤巻亮太 二人会~芝浜と粉雪~」をとりおこなうことが決まった。落語と音楽の異色コラボ、正直、私自身もまったく初めてのことだから、どのようなものになっていくのか想像できないところもある。ただ、一之輔師匠は元々ラジオのゲストに来ていただいたご縁で知っており、時折一緒にお酒を飲みつつ話をさせてもらう関係だ。

 一之輔師匠と初めて話した時のことを今でも鮮明に覚えているが、“話し上手は聞き上手”とは正にこの人の為にある言葉だと思った。相手の話を聞きながら引き出していくのがとても上手で、そして絶妙な間(ま)で話を進めていく人だ。私は一之輔師匠の落語はもとより、会話力も含めて尊敬しているのだ。そんな師匠とのコラボだから私がしっかりすればきっと巧くいくと信じている。 

 芝浜と粉雪。「粉雪」は私の持ち歌、「芝浜」は古典落語の演目の一つでいわゆる人情噺に分類される。あらすじなどはネットをたたけばすぐに出てくるので書かないが、文字ベースでみるとそれほどの分量ではないのだ。私の手元にある『古典落語 選』(興津要編、講談社学術文庫)のなかに収録されている芝浜は文庫にして10ページと少し。本で読んでいてももちろん面白いのだが、やはり落語家さんが高座の上でこの10ページと少しの話をそれぞれが創意工夫をこらしアレンジし、口調や間で客席を制し、感情をゆさぶり感動に変えていくその話芸をライブで観るのが一番なのだ。私はこれまで客席から拍手を送る側であったが、今回ありがたいことに一之輔師匠の横に立たせてもらえる。師匠の演じる「芝浜」のあとで「粉雪」を歌う私はベストをつくしたい。どのようなハーモニーとなるかは当日の楽しみだ。