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「アインシュタインの戦争」書評 ニュートンの国の科学者が尽力

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月19日
アインシュタインの戦争 相対論はいかにして国家主義に打ち克ったか 著者:水谷淳 出版社:新潮社 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784105071615
発売⽇: 2020/07/17
サイズ: 20cm/463,9p

第一次大戦下、相対論完成を目指すアインシュタインに立ちはだかった試練−平和主義者の弾圧、妻との確執、食糧難、そして協力者たちとの分断。憎しみあう大国のはざまで揺れ動いた科…

アインシュタインの戦争 相対論はいかにして国家主義にうち克(か)ったか [著]マシュー・スタンレー

 アインシュタインは、ルーズベルト大統領への原爆開発書簡やラッセル・アインシュタイン宣言等の政治的活動でも知られている。そのため、タイトルの戦争から漫然と第2次世界大戦を連想してしまった。
 ただし一般相対論が完成した1916年ごろは、第1次世界大戦の真っ只中(ただなか)。大学で相対論を教えていながら、この本を読むまでその関係性に思い当たらなかった自分が恥ずかしい。
 当時は無名だった彼を突如有名にした立役者が英国の天文学者エディントン。1919年にアフリカで皆既日食を観測し、光の進路が重力で曲げられるとの相対論の予言を証明した。この劇的ニュースは世界中を駆け巡り、アインシュタインは一躍20世紀で最も著名な物理学者となった。
 しかし、第1次世界大戦中の欧州で、しかも近代科学を牽引(けんいん)したニュートンの祖国たる英国が、なぜわざわざ無名の敵国学者の怪しげな新理論検証にそれほどまで尽力したのだろうか。
 本書は、1921年まで会ったことのなかったエディントンとアインシュタインを主役として、戦時下に一般相対論が確立する過程を丹念に描いた力作だ。
 特にアインシュタインを英雄視することなく、科学者としての姿のみならず、その私生活をも赤裸々に描いている点に驚かされる。
 一般相対論完成後、戦時下のドイツで、食料不足と繰り返す胃痛に悩むアインシュタインは、最初の妻であるミレヴァと離婚できないまま、後に妻となるエルザと暮らし始める。
 信じがたいことに彼はエルザの娘とも関係をもち、「二人で決着をつけてもらって、どちらとでもいいから結婚したい」と言ってのけたそうだ。交渉の末、アインシュタインが将来ノーベル賞を受賞したらその賞金を受け取るとの条件でミレヴァは離婚に同意する。
 こんなエピソードもてんこ盛りの本書は、今後の講演のネタ本として本当は教えたくなかったなあ……。
    ◇
 Matthew Stanley ニューヨーク大教授(科学史、科学哲学)。BBCや米国国営ラジオに出演。