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「ベ平連とその時代」書評 自分の声と身体で訴える新しさ

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2020年09月26日
ベ平連とその時代 身ぶりとしての政治 著者:平井 一臣 出版社:有志舎 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784908672415
発売⽇: 2020/07/18
サイズ: 20cm/343,6p

ベ平連とその時代 身ぶりとしての政治 [著]平井一臣

 ベトナム戦争に反対。この一点で「ふつうの市民」が誰でも自由に意志を表せる場。それをデモによって路上に実現したのが「ベトナムに平和を!市民連合」だった。戦後日本の市民運動の代表格と言えよう。
 本書は1965年の発足から解散まで、ベ平連の9年弱の軌跡を描く。日米同時デモ、米紙への反戦意見広告、フォークゲリラ、反戦喫茶等々。自らの声と身体で訴えかける「身ぶり」が、新たな政治を可能にした。その斬新な発想や個人を単位とする組織原理は、初めはなかった。創案に至る試行錯誤が、哲学者・鶴見俊輔のノートなど当事者の史料から再現される。
 ベ平連といえば、代表の作家・小田実や東京の活動に目がいきがちだ。実際は小規模都市や農村で、「一人ベ平連」でも、人々は手弁当で声を上げ続けた。この地域ベ平連に光を当てたのも、本書の特徴だ。
 なぜそれほど広がったのか。敗戦からまだ20年、テレビに映る戦場に自らの戦争体験を重ねた人は多い。日本各地に米軍基地が広がり、ベトナムとここはつながっていた。加害性の自覚と兵士への想像力は、脱走兵や反戦米兵の支援につながり、軍隊「解体」を目指す稀有(けう)な試みを遺(のこ)した。
 だが新左翼の党派対立や警察の弾圧が強まると、非暴力を貫こうとするベ平連は活動の余地を失う。人々のデモへの評価も数年で一変し、関心は「70年安保」より万博に向かった。運動を生み出した高度成長下の社会が、運動を追い越して変質していく。
 ベ平連は、本当は何と闘っていたのか。人々に届くような、「原理がちゃんとあって、借りものでないコトバというものは成立してない」。半世紀前の小田の自問は、3・11後の反原発、反安保法制の国会前、そしてコロナ禍の現在へと、デモの復活と困難を駆け抜けたこの10年に直結している。「身ぶり」が政治となる現場は、私たちの日常にこそある。
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 ひらい・かずおみ 1958年生まれ。鹿児島大教員(地域政治、日本政治史)。著書『「地域ファシズム」の歴史像』など。