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マール コウサカ「すこやかな服」 淡々と慣習破るブランドの足跡と思い

 私はファッションに詳しい方ではない。でも、「マール コウサカ」というデザイナーのことは気になっていた。その服というより「あり方」に“時代”が象徴されているように感じたからだ。

 1着のワンピースに5メートルの生地を使うこともある、独特な世界観を放つ服は、SNSで新作が告知される度にファンを沸かせ、たちまち完売。実店舗は持たず、全国各地で試着会を行って販売はネット経由のみ。セールは一切せず、人気商品は堂々と再販を重ねる。そんな斬新なブランド「foufou(フーフー)」を立ち上げるに至った足跡と、日々の仕事に込める思いを綴(つづ)る。

 タイトルの『すこやかな服』は、すこやかな“消費”あるいは“働き方”といった幾重もの意味を内包する。「頑張らなくても続けられること」を大切にしてきたと語る著者の哲学は、ビジネス社会で近年注目される「持続可能性」にも通じる。アパレル業界の慣習を軽やかに打ち破り、決して声高でなく淡々と、小さな巨人になろうとしている。

 1990年生まれの著者のキャリアは、夜間に服飾を学び、自宅で縫った数着の服を売ることから始まった。デジタルネイティブ世代の自己実現のモデルがここにある。=朝日新聞2020年10月17日掲載