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映画「10万分の1」でALSを患う主人公を演じた平祐奈さん 多くの人にこの病気を知ってもらえたら

文:根津香菜子、写真:篠塚ようこ

涙が止まらなかった

――本作への出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

 原作は、以前知り合いの人におすすめしてもらって読んでいたのですが、もう涙が止まらなかったです。その時から「莉乃をやりたい」と思っていたので、出演が決まった時はすごく嬉しかったです。今までは明るい役を演じることが多かったのですが、今回はALSという病気を患う女の子という難しい役どころだったので、色々と大変な部分はあるんだろうなと思いながら、新しい挑戦ができることは嬉しかったですね 。

 蓮役の白濱(亜嵐)さんとは今作で初めてお会いしたのですが、すごく気さくで、撮影に入る前も後も、ずっとイメージが変わらずにナチュラルな方でした。撮影が終わった後も、友人役の優希(美青)さん、白洲(迅)さんの4人でいることが多かったんです。たわいもない会話をしたり、一緒にご飯を食べたりしていたので、自然と出来上がった空気感が映画でも出たのかなと思います。作品の内容は重ためですが、現場の雰囲気はすごく明るく穏やかで、いい空間でした。

ヘアメイク:菊地弥生(ひつじ)、スタイリスト:川上舞乃

――徐々に筋肉が動かなくなっていき、いずれ全身が動かなくなる難病のALSを患うという役どころでしたが、演じるうえで大切されたことや心がけたこと教えてください。

 ALSという病気を知らない方も多いと思うので、この作品で少しでも知ってもらうために、ちゃんと自分が役に入らなきゃという思いがあったので、ALSについて調べることから始めました。私は杖をついたことがなかったので、撮影に入る前から実生活でも杖をついたり、ALS を題材にした作品を見たりしていました。

 撮影に入る前に、ALS患者の武藤将胤さんにお会いしたんです。武藤さんが動けなくなった時のことを細かく教えてくださって、演じる上でのヒントをいただきましたし、ALS患者の方の気持ちをより深く考えることができました。作中でも、莉乃と蓮がALS患者の方に会いに行くシーンがあるんです。最初は驚くんですが、一生懸命、前を向かれている姿に「私も頑張んなきゃ!」と背中を押してもらえましたし、大切に時間を過ごされているなということも感じましたね。私ももっと毎日を大切に過ごさなければいけないなと改めて思いました 。

©宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会

――体が不自由になっていく後半では、杖を使って歩くなど動きに制限がありましたが、動きの面で意識されたことはありますか?

 撮影は10月と3月に分けて撮ったので、体の動き方や使い方、どんなスピードで歩いていたのかなどを覚えていないと時間の流れがつながらなくなるので、細かい動きにも気を配りました。

 杖をつく生活をしてみて思ったのは、想像していたよりも周りには人の愛が溢れているなということです。はじめは「人の目が気になるかな」と不安に思うこともあったのですが、車を止めて横断歩道を渡らせてくれる人や「大丈夫?」と気にかけてくださる方が多かったです。

©宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会

――作中で、莉乃が「やっぱり私、ALSなんだって」と蓮に伝えるシーンは見ていても辛かったのですが、平さんはどんな感情が湧きましたか?

 もし実際に自分がそうなった時、きっと同じことを思うだろうなと思います。付き合っている相手に「これからの長い人生、私と一緒にいていいの?」という気持ちはすごく共感したので、あのシーンは感情が溢れ出ましたし、莉乃のセリフは本当に自分の言葉になっていました。

 まだ10代という若さで、何が原因かも分からず、10万分の1の確率で発症する病気が「なんで自分なんだろう?」と、自分を責めてしまうこともあるんだろうなと思うけど、誰も悪くないんですよね。そういうやりきれない思いは、演じていても自分の精神もやられるというか、重すぎる役どころではありました 。

「乗り越えられる」意識が大事

――莉乃から学んだことはありますか?

 莉乃は常に真っ直ぐで思いやりがあって、家族を一番大切にしているんです。だからこそ、恋愛をした時に相手のことも大切にできる女の子なんだなと思いました。自分に自信がないところもあるのですが、割と根っこの部分は強いなと思ったので、そういうブレない芯の強さは、私もそうありたいと思うところですね。

――本作は漫画が原作ですが、平さんの読書ライフについて教えてください。

 読むスピードはゆっくりなんですけど、常に本を読むようにしています。私は6人兄弟の末っ子で兄が4人いるのですが、昔、3番目の兄がオードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローの生き方を描いた本をいきなり渡してきて「これを読んで、感想文を書きなさい!」って言ってきたことがあったんです。ちょうど読書感想文で書く本を探していたので、それを読んで書いた思い出があります(笑)。

 最近は、中脇初枝さんの『きみはいい子』を読みました。児童虐待を題材にした作品なのですが、作中には自分も虐待された経験があって子どもにも手を出してしまう人もいて、色々考えさせられました。子どもって生きていくうえで親がお手本になるから、いつか自分が親になった時「こういう考え方もあるんだ」と思えるような、家族や子どもをテーマにした作品を読むことが多いです。

――平さんが読書から得るものって何でしょうか。

 「人生を歩むうえでのヒント」ですね。ある時、ふと手に取った本が、今自分が考えていることのヒントになっていることがあって、作品に出てくる言葉に助けられたりすることもあります。本を読むと想像力も膨らみますし、感情移入しながら読むことが多いので、得るものは多いです。今回の『10万分の1』からは、「何か辛いことがあっても乗り越えられるという意識を持つことって大事だな」ということを教えてもらいました。

 ファンの方からSNSなどでおすすめの本を教えてもらうこともあります。その時の自分には年齢的にまだ少し難しいかなと思った本でも、20歳過ぎて読んでみたら意外とハマったり、自分と本の出会うタイミングが合うと、色々な発見があっておもしろいなと思います。