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爆音と痛み、その先に希望が  「子どもの本棚」オススメ本3冊

「拝啓パンクスノットデッドさま」

 高1の晴己(はるみ)は2歳下の弟と2人暮らし。気まぐれに帰ってくる母親を当てにできない日々を送っている。生活のためにバイトを掛け持ち、将来に希望を持てない晴己の唯一の支えは大好きな音楽「パンク」だった。
 親子関係に恵まれなくても、誰かに大事にされることで人はまっすぐに育つ。晴己はもちろん、彼を取りまく大人も子どもも細部まで丁寧に描かれ、押し付けがましくなく現代の社会問題が浮き彫りになっている。
 えぐられるような爆音と痛み。音の先に見える希望。パンクを聞いたことがなくても、主人公の心に呼応するように熱いリズムが響いてくる。好きなことがあるということは人生の強みだ。きっと生き抜く力になる。(石川宏千花作、西川真以子絵、くもん出版、税抜き1400円、小学校高学年から)【丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん】

「ねられん ねられん かぼちゃのこ」

 夜です。空からお月さんが声をかけます。「そこの かぼちゃのこ はやく ねなさーい」。「ねられん ねられん あたまに かえるさんが のってては ねられん ねられん」と、かぼちゃの子。カエルにどいてもらっても、今度は背中にイモムシが、次はお尻にカナブンが……。寝かしつけたい親とへりくつこねる子の攻防みたい。でも「しなさいっ」でなく「しなさーい」と、おうような口調がいいですね。おや、どいてくれない子が1匹いるけれど? 寝る前のこだわりの儀式。心身ほぐれるゆかいな絵と文で、おやすみなさーい。(やぎゅうげんいちろう作、福音館書店、税抜き900円、2歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】

「おじいちゃんとの最後の旅」

 ウルフの入院中のおじいちゃんは、わがままだし汚い言葉を連発するので周囲をうんざりさせている。でもウルフは、「やりたいことがある」という大好きなおじいちゃんのために、ひそかに病院脱出計画を立て、うそもつき、危険も冒して実行する。ユーモラスな会話を通して、愛に不器用だった祖父の姿、祖父と父、父とウルフのぎくしゃくする関係などが浮かび上がる。自分の祖父の思い出をたっぷり盛り込んだ、スウェーデンの作家スタルクの最後の作品。挿絵も味がある。(U・スタルク作、K・クローザー絵、菱木晃子訳、徳間書店、税抜き1700円、小学校中学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】=朝日新聞2020年10月31日掲載