手にしているのはアフリカ納豆のひとつで、「スンバラ」という。
4年前の『謎のアジア納豆』に続くアフリカ(+韓国)編だ。かつてミャンマーの民家で食事に納豆が出たことに驚き、「納豆=日本」ではないのではと、知られざる「納豆民族」を世界各地に訪ねた。以来、7年かけた探究の集大成である。
「日本のものとの違いや、同じ発酵食品を食べている人々の暮らしなど『納豆の謎』にひかれまして」
謎や未知の部分が好きなのは早大探検部のころから変わらない。2013年の『謎の独立国家ソマリランド』の後は納豆に心を奪われた。ナイジェリアやブルキナファソなどで納豆を作っている人を探しては、作り方を教えてもらい、料理を味見させてもらう。突然の訪問でも「納豆好き」と言うと緊張がほどけ、親戚のように受け入れられた。かまどで豆の煮え加減を一緒に確かめたり、木陰に集まって酒を飲む地元の人たちの輪に加わったり……。食文化は異なれど、みな「納豆愛」を語る。各民族の普段着の生活が、体温を伴って伝わってくる。
日本では大豆を煮てわらで包んでいたが、アフリカでは木の豆や植物の種からも作り、わらにも葉にも包まない。食べ方もそのままではなく料理に混ぜたりダシにしたり。
なぜこうも違うのか。歴史や文献を調べ、研究者へ取材し、謎がとけるたびに心弾ませる。極上ミステリーを読んでいるようでもある。
「調べれば調べるほど新しい地平が開けてきて、面白くてやめられなかった。壮大な自由研究です」と笑う。だが、身近なものにこれほどの謎を見いだす探検力に圧倒される。手間暇かけたユニークな実験も楽しい。世界の納豆菌で作った納豆の食べ比べや、祖先の食を探る「サピエンス納豆」の試作も。その材料は?(文・加来由子 写真・篠田英美)=朝日新聞2020年11月7日掲載