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「ゼロからつくる科学文明」書評 時間を経てわかる 発明の意義

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月21日
ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド 著者:ライアン・ノース 出版社:早川書房 ジャンル:

ISBN: 9784152099679
発売⽇: 2020/09/17
サイズ: 19cm/549p

ゼロからつくる科学文明 [著]ライアン・ノース

 タイムマシンの故障で過去に残されたタイムトラベラーに、文明を作り出すための方法を伝えるガイドブックという設定。コンピューター科学を専門とする著者が、大昔に行っても自分の知識では神のように崇(あが)められないことに気づき、再現しやすく影響が大きい技術をまとめた。大昔で天才扱いされる「カンニングペーパー」だ。
 まず、説かれるのが「話し言葉」「書き言葉」の必要性。文明を作り上げるには、知識を伝え蓄積する手段が必須。とてつもない積み重ねの上に、我々が享受する生活がある。
 有用な動植物、農具や水車、窯や炉、発電機、化学物質、様々な技術の発明に必要なものや方法、変遷が、感心する逸話やユーモアを交えて語られる。
 目につくのは、かつて発明された経過の説明で、繰り返される「恥ずかしく時間がかかりました」「再発見」という表現。例えば、装飾用のボタンを作ってから衣服の留め具とするまでに数千年、熱気球を作るのに必要な技術を手にしてから実際に作り出して飛ぶまでに1万年近くかかっている。セメントとコンクリートは一度手にしながら、1千年もの間忘れられた技術になっていた。
 飛躍的に便利なものを作る基礎技術があったとしても、すぐには実用化できなかった祖先たち。でも、そんなまわり道を笑えるのか。ひょっとしたら、我々も数百年、数千年後の子孫たちがあきれる見落としをしているかも知れないじゃないか。今は何に役に立つか分からない発見や技術、知識を積み重ねて残さなければ、その芽が失われる。
 何事も最短時間で達成できるわけではなく、教えられず時間をかけたから得られた何かがある。そんな気がしてきた。本書は文明や現代社会に思いを巡らす視点も提供している。
 そういえば、日本は明治維新以降、外から知識と技術を得て、短時間で先端に駆け上がっていた。
    ◇
Ryan North カナダ・トロント在住の作家。「Dinosaur Comics!」シリーズでアイズナー賞とハーベイ賞。