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谷口智則さんの絵本「100にんのサンタクロース」 子どもの数だけサンタがいる

文:澤田聡子 写真:本人提供(プロフィール)

「サンタ像」はみんな違う

——おおきいサンタとちいさいサンタをリーダーに、たしざんサンタやえかきサンタ、だいくサンタにちずサンタ……クリスマスに向けてせっせと準備するサンタさんたちが、なんと100人も! 個性豊かなサンタクロースたちが次々登場する谷口智則さんの絵本『100にんのサンタクロース』(文溪堂)は、クリスマスシーズンに親子で読むのにぴったりの絵本だ。

サンタクロースの形のおうちがユニーク。「本当に100軒描きました」(谷口さん)。『100にんのサンタクロース』(文溪堂)より

 『100にんのサンタクロース』のひとつ前のエピソードが『おおきいサンタとちいさいサンタ』(文溪堂)。個性や得意なことが違う2人が助け合ってプレゼントを配るようになった、というおはなしです。サンタクロースと聞いて思い浮かべる一般的なイメージはあるけれど、子どもたちがそれぞれ思い描く「サンタ像」って、一人ひとり違うと思うんですよ。きっと、子どもの数だけサンタがいるんじゃないか。そう考えて、おおきいサンタとちいさいサンタの2人とともに、とにかくたくさん!という気持ちで、100人登場させることにしました。

 最初に取りかかったのは、サンタクロース100人のキャラクター作り。名前と役割を一人ずつ考えていくんですけど、50人くらいまで考えたところで、だんだん思い付かなくなってくるんですよね(笑)。彼らのキャラクターをストーリーにもうまく落とし込まなければいけないので、考えるのが楽しい半面、やはり大変でした。

裏表紙の内側には、個性的な100人のサンタさんがずらり。『100にんのサンタクロース』(文溪堂)より

 ラフを描き始めたころは、サンタの名前も本文で紹介していたのですが、どうしても文章が長くなってしまう。絵を見てもらえばひと目で、それぞれのサンタがどういう役割なのか分かるので、本文にはあえてサンタたちの名前を出さないようにしました。代わりに、裏表紙の内側で100人のキャラクターをすべて紹介しています。

予想外の展開にわくわく 

——サンタクロースの顔をした家々が建ち並ぶ冒頭のカラフルなページをめくると、次の見開きは一転してモノクロームの世界に。黒いシルエットで表現された100人のサンタクロースたちの姿にわくわくする。

『100にんのサンタクロース』(文溪堂)より

 100人を物語の中で少しずつ紹介していくうえで、「どういうシーンがあれば、子どもたちの想像力が刺激されるかな」と考えて作ったページです。カラフルなサンタがたくさん登場するので、ここではなるべくシンプルに、白黒でメリハリをつけたかった。子どもたちに「どんなサンタが出てくるのかな」と、“色”も想像してもらえるように演出しました。

 絵を描くときは、黒い紙をベースにしてその上から色を塗っています。このときはサンタのシルエットを型紙にして作っていきました。おおきいサンタ以外は同じ型紙を一つずつ黒い紙に当てて、背景を白く塗って。これも数えていただければ分かるのですが、100人のサンタをすべて描いています。

——春、夏、秋と季節が移り変わるなか、100人で協力して準備を進め、いよいよクリスマス当日。プレゼントをそりに積み込んでさあ出発! 次のページをめくってみると……なんとすでにプレゼントの配達は終わっており、サンタクロースたちの「お疲れさまクリスマスパーティー」が賑やかに始まっている。少しずつ、読者の予想を外していくような展開が面白い。

『100にんのサンタクロース』(文溪堂)より

 これまで読んできたサンタクロースの絵本だったら、きっと「プレゼントを配るところ」がメインで、サンタが屋根に登る場面や、子どもたちの枕元にプレゼントを置いている場面が描かれると思うのですが、そういうシーンはあえてカットしました。サンタさんが煙突から入ってくる絵を描いたとしても、「うちはマンションやし、煙突ないもん」って感じる子もいると思ったんですよね。それなら、それぞれの想像に任せたほうがいい。

 サンタさんはプレゼントを一体どうやって配っているのか。僕も昔はよく想像していました。子どものころ、目撃したサンタさんは「壁をすり抜けてきた」という記憶があります(笑)。二段ベッドの上で寝ていたら、天井からぬーっと巨大なサンタが現れた。めちゃくちゃ怖くて、ずっと薄目で様子をうかがっていました。夢と言ってしまえばそれまでなんですが、きっと僕の想像力が生み出したサンタなんですよね。でも、そういう想像力って、子どもはみんな持っているんじゃないかな。ちなみに「おおきいサンタ」は、このときに見た巨大なサンタをモデルにしています。

「余白」で想像をかき立てる

——金沢美術工芸大学では日本画を専攻。鑑賞者の想像を刺激する日本画の「余白」の美や、独特の色遣いは絵本作りにも影響を与えていると語る。

 日本画は、描いていない空間で何かを語る……その「間」を心地よく感じるのですが、絵本も同じだと思っています。余白があることで、子どもたちの想像力をかき立てることができる。昔から長谷川等伯の「松林図屏風」が好きですが、作品の前に立つと、まるで絵の中にそのまま吸い込まれていくような気持ちになります。「松林図屏風」のように、読み手が場面の中にすっと入り込めるような絵本を描くことが理想ですね。

 大学時代に模写した京都・高山寺の「鳥獣人物戯画」も印象的でした。3週間も同じ絵に向き合っていると、いろんな想像が生まれてくる。擬人化された猿やうさぎ、カエルの生き生きした動きを見ているだけで、ストーリーやセリフまで浮かんでくるわけです。僕の絵本でも、キャラクターの表情やたたずまいから何かを感じ取ってほしいと思いますが、わざとらしいものは描きたくないんです。常に読み手の想像力に委ねられるようなものが描きたい。だから、登場人物が大泣きしたり、大笑いしたりしているような分かりやすい絵は、僕の作品にはほとんど出てこないですね。

『100にんのサンタクロース』(文溪堂)より

 絵を描くときは、自分で絵の具を混ぜ合わせて色を作っています。使うのは、赤、青、黄、黄土色(イエローオーカー)、白の五色と墨だけ。五色あればどんな色でも作り出せる。日本画の絵の具はとにかくたくさん色数があって、たとえば「緑」だけでも300色ぐらいあります。それを全部買うことはできないので、いつの間にか自分の感覚で出したい「色」が自在に作れるようになりました。

絵本は子どもにとって最初の芸術

——「子どものころは、自分が好きになれる絵本と出合えなかった」という谷口さん。絵本作家を志すようになったのは、大人になってイギリスの絵本作家の作品に触れたのがきっかけだったと振り返る。

 大学時代にチャールズ・キーピングやブライアン・ワイルドスミスなど、イギリスの絵本画家の原画展を見て、絵の素晴らしさと物語の深みに衝撃を受けました。日本ではなぜ大人も読めるような絵本が少ないのか、ないのなら自分で作るしかないと思って絵本作家を目指すようになりました。

 デビュー作の『サルくんとお月さま』は文字のない絵本で、今読み返すと結構大人っぽいなと感じますね。自分に子どもが生まれ、子育てにかかわるうちに、絵本の作り方もだんだん変わってきました。読み聞かせしたときの子どもの反応や何気ない日常での発見が、絵本作りのヒントになることもよくあります。

 絵本って、子どもが最初に触れる「本」であり、「芸術」でもある。自分が小さなころに好きになれる絵本と出合う機会がなかったからか、読者である子どもたちが、いろんな絵本に触れられるきっかけ作りができれば、と思っています。人前に出るのは苦手なのですが、そうした思いから、絵本のサイン会やライブペインティングなどの活動をするようになりました。自分や世の中の変化とともに生まれるテーマもあるので、そうした“気づき”を大切にしながら、これからも作品を作っていきたいですね。