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中井英夫没後27年、「虚無への供物」の舞台に分骨 山口から東京に

『虚無への供物』を手にする中井英夫=1992年、本多正一さん撮影

 戦後ミステリーの傑作『虚無への供物』で知られる中井英夫が亡くなって27年。命日の12月10日、東京都・下谷の法昌寺に、両親と眠る山口県の墓から分骨された。法昌寺の住職は中井の葬儀で導師を務めた歌人の福島泰樹さん(77)。「生まれも東京で、『東京市民』であることに誇りを持っていたからお迎えできてよかった」と話す。

 『虚無への供物』は奇(く)しくも1954年12月10日、下谷の竜泉寺界隈(かいわい)から話が始まる。物語の舞台にちなみ、福島さんは三回忌のころ、寺の本堂わきに供養塔を建てた。年に何度かバラの花が手向けられるといい、「いまなお根強いファンがいる証し」と福島さん。遺骨は本堂と向かい合う納骨堂に収められた。

 64年に出た『虚無への供物』は三島由紀夫や埴谷雄高、澁澤龍彦らに絶賛された。73年の『悪夢の骨牌』で第2回泉鏡花文学賞を受賞。耽美(たんび)的な幻想文学者として名を馳(は)せた。

 一方、短歌雑誌の編集長時代に大学在学中だった寺山修司を見いだし、塚本邦雄、中城ふみ子、春日井建ら前衛的な歌人を発掘した名伯楽としても知られた。「現代短歌の父。いわば恩人」と福島さんは言う。

 今回、親族との橋渡しをしたのは、晩年に助手を務めた本多正一さん(56)だ。「繊細な美意識を持った人だった。ファンの方が文学散歩の途中で墓参りもしてくれたらうれしい」(佐々波幸子)=朝日新聞2020年12月23日掲載