「あしたのことば」
本書には、ことばをめぐる短編が八つ収められている。「帰り道」では、いつも学校の行き帰りが一緒だった仲良しの律と周也が、ある会話のやりとりからお互いに気まずくなる様子が描かれている。きっと誰もが感じたことがある、自分の思っていることをことばにできない歯がゆさ。それを2人はどうやって乗り越えたのか、自分のことに重ね合わせながら読みたいエピソードだ。また、何げなく言ったことばが人の心を傷つけたりする一方で、最後の話「あしたのことば」に登場する、転校生でひとりぼっちの長沼君にかけてくれた友だちのことばは希望のメッセージとして届いたりもする。ことばが織りなすそれぞれの物語に心がとらえられる。(森絵都作、小峰書店、税抜き1600円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
「スーパー・ノヴァ」
「読めず、話せず、重い知恵おくれ」とみなされている12歳のノヴァは、自分を肯定的に受け入れ擁護してくれる姉に頼って暮らしてきた。ところがその姉が消えてしまい、ノヴァは里親に引き取られる。1986年の宇宙船チャレンジャー打ち上げまでには姉が帰ると信じているノヴァは、カウントダウンしながら出せない手紙を姉にあてて書き、里親の家庭や学校でさまざまな体験をし、理解者を得て次第に自分の居場所を見つけていく。自身も障がいを抱えていた著者が生き生きと描くノヴァに寄り添って読める。(ニコール・パンティルイーキス著、千葉茂樹訳、あすなろ書房、税抜き1500円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】
「くらやみきんしの国」
暗闇が怖い王子。大きくなって国王になり、暗闇を禁止しようとしますが、国民の反対を恐れた大臣たちは、まず暗闇の悪いうわさを流します。暗闇は恐ろしい、暗闇は悪……と。洗脳された国民の願いを聞き入れるふりをして、国は人工太陽をしつらえ、どこもかしこも明るくします。電気を消したら罰金。眠れなくなった人々は、暗闇を取り戻さなくてはと気づき……? とぼけた味わいの絵にシニカルな視線。国民もだまされっぱなしでなく、平和な大作戦と闇に色がはじける結末が痛快です。(エミリー・ハワース=ブース作、おおつかのりこ訳、あかね書房、税抜き1600円、小学校低学年から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】=朝日新聞2020年12月26日掲載