「猫と東大。」「ネコの博物図鑑」書評 人との「関係の絶対性」問い直す
ISBN: 9784623089314
発売⽇: 2020/11/10
サイズ: 21cm/164,2p
ISBN: 9784562057856
発売⽇: 2020/11/07
サイズ: 25cm/224p
猫と東大。 猫を愛し、猫に学ぶ [編]東京大学広報室/ネコの博物図鑑 [著]サラ・ブラウン
人はネコとして生まれ人間になる。猫はネコとして生まれネコのままである。
出生とともに「人間の尊厳」を享受する乳児と、能力は同等なのに法律上は「物」として扱われる猫。両者の間に横たわる関係の絶対性を疑うこと。それが、主客を書名において転倒させた『猫と東大。』と、原題は「或(あ)るひとつの自然史」である『ネコの博物図鑑』とに共通する主題である。
どちらも、素晴らしい写真が演出する学知と情愛との両立が見事。とりわけ後者の筆致は、さながら猫界の松田道雄だ。文献注に裏付けられた猫学の現在を平易な言葉で堪能できる。カタイこといわず楽しんで読めばいいニャンという意見もあろうが、評者としては、後者を先に読むことをお薦めする。それにより、少々親バカ度が強すぎる前者の価値を正当に評価できよう。
肥沃(ひよく)な三日月地帯の穀倉をネズミから守る用心棒契約以来、人間社会と「片利共生的」ないし「共利共生的」な関係を結んできた猫たち。一旦(いったん)エジプトなどで神格化され尊厳の身分を獲得したが、中世ヨーロッパでは一転、魔女の化身としての烙印(ブランド)を押されて苦しんだ。しかし彼らは、そのつど類(たぐい)まれな適応能力を発揮して、種特有の社会的シグナルの体系を流用し、人間との意思疎通を図ってきた。これに対し人間は、自らの社会的行動パターンを直接適用して接するばかりで、「ネコほど努力していない」(サラ・ブラウン)。
人間の協力者から進んで、家族の成員となるものも増えたが、人間社会に対して「相対的に自立」した野良猫の状態(ステータス)が、依然「最も主要な態様」だ。毛色を基準としがちな飼い猫の名付けは、帝国主義的心性の投影であり(小森陽一)、「介護形態」としての野良猫保護の発想が、帝国主義経験の植民地後(ポストコロニアル)の変形なのだとすれば(小野塚知二)、彼らにも「被造物の尊厳」(スイス憲法)を承認できるか否かは、人間社会自体の構造を問うことと同義である。
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東大教授らがネコについて様々に追究、語った本▽Sarah Brown ネコに関する英国のコンサルタント。