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「ノーベル平和賞の裏側で何が行われているのか?」書評 近年増えた推薦 政治の圧力も

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月23日
ノーベル平和賞の裏側で何が行われているのか? 著者:ゲイル・ルンデスタッド 出版社:彩図社 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784801304864
発売⽇: 2020/10/27
サイズ: 19cm/479p

ノーベル平和賞の裏側で何が行われているのか? [著]ゲイル・ルンデスタッド

 ノーベル平和賞は「ノルウェー議会により選出された委員で構成される委員会で決める」とアルフレッド・ノーベルは遺言している。1901年から始まり、120年の歴史を持つ最も権威ある平和賞である。著者はノルウェー・ノーベル委員会の事務局長を25年にわたって務めた。
 その間の見聞を正直に語ったのが本書である。内幕を許される範囲で明かしたことになろうか。意外なことに近年は推薦が殺到しているそうだ。パキスタンのマララ・ユサフザイが最年少の17歳で受賞した2014年には、278人もの名が挙がっていた。それまで子供や若者が対象になることはなかったが、狂信主義と過激主義に対する闘いを体現し、教育を受ける権利を主張するマララは、平和のシンボルとされた。
 著者の事務局長就任の年の受賞者はミハイル・ゴルバチョフ、退任時がこのマララだった。ゴルバチョフの受賞講演時にはアフガニスタン出身とおぼしき女性が花束を持って演壇に上がろうとし、マララの授賞式ではメキシコ人学生が自国の国旗を持って受賞者らに近づいた。それゆえ自らの在任期間はスキャンダルに始まり、終わったと書く。
 受賞者の決定や授賞式への出席の可否にも、それぞれの国の人権が絡んで平和賞そのものが政治問題となる。中国の人権活動家・劉暁波やミャンマーのアウンサンスーチーらの受賞の経緯や圧力の実態が語られる。内政干渉だと訴える中国側の強硬な抗議、対抗措置も紹介されている。
 委員会事務局は、国際情勢への貢献、受賞者の素顔を見て平和賞の意義を再確認する。マンデラ、オバマ、アナンらへの称賛の筆にこの賞の本質は何かを問う姿勢がうかがえる。「スカンディナビア的な考え方」も平和賞の強みという表現に自負が感じられる。かつて反ヒトラーの人物に平和賞を送り、ヒトラーを激怒させたというのも、輝かしい歴史と言えようか。
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 Geir Lundestad ノルウェーの歴史家。1990年から25年間、ノルウェー・ノーベル委員会事務局長を務める。